📊 3行サマリー

  • 『龍が如く』を世に出した名越稔洋氏の新スタジオが、韓国の俳優マ・ドンソク主演の新作『GANG OF DRAGON』を完成できず、2026年5月に事実上の活動停止へ追い込まれた。
  • 出資元の中国NetEaseは、完成にあと70億円(約4,400万ドル)かかると判明した段階で5月の出資停止を決めた。開発費はすでに推定4,000万ドル超に膨らんでいた。
  • 制作陣は新しい出資者を探しているが、5月時点で見つかっていない。東京・恵比寿にあったスタジオはGoogleの店舗情報で「閉業」と表示されている。

📝 マ・ドンソク主演『GANG OF DRAGON』、NetEaseの資金打ち切りで開発が宙づりに

韓国を代表するアクション俳優マ・ドンソク(『犯罪都市』『新感染 ファイナル・エクスプレス』、マーベル『エターナルズ』)が主演を務めるゲーム『GANG OF DRAGON』が、完成しないまま消えそうになっている。開発元は、『龍が如く』シリーズの生みの親・名越稔洋氏が立ち上げた名越スタジオ。2025年12月の「The Game Awards 2025」で初公開され、東京・新宿歌舞伎町を舞台にした硬派なアクションアドベンチャーとして、シリーズのファンから即座に注目を集めた作品だ。

その期待作が、出資元である中国NetEaseの資金打ち切りで宙づりになった。2026年2月初旬を最後にスタジオのSNS更新が止まり、5月に入って公式YouTubeチャンネルが削除、5月12〜13日には公式サイトのドメインそのものがアクセス不能になった。東京・恵比寿のオフィスはGoogleの店舗情報で「閉業」と表示されている。名越スタジオは現時点で公式な声明を出していない。Steamのストアページだけが残り、いまもウィッシュリスト登録はできる状態だ。

📰 Bloombergが3月に報道、完成にはあと70億円が必要だった

元ネタBloomberg: NetEase to Halt Financing on Toshihiro Nagoshi’s Nagoshi Studio in May(Anime News Network/2026年3月7日、Bloomberg報道のまとめ)

The game would need additional funding of 7 billion yen (about US$44 million) to be completed.

最初に動きを伝えたのはBloombergだった。3月の報道によれば、NetEaseは『GANG OF DRAGON』の完成にあと70億円(約4,400万ドル)の追加資金が必要だと把握し、その上で5月での出資停止を決めたという。韓国のゲームメディアでもこの一件は大きく扱われ、ゲームビューや週刊ポストなどが「マ・ドンソク主演ゲームの開発危機」として報じている。なお一部の海外メディアは追加資金を「700億円」と伝えたが、これは「70億円(7 billion yen)」の誤訳で、ドル換算の約4,400万ドルと整合する70億円が正しい数字だ。

🔥 開発費4,000万ドル超の映画的大作が、3年かけて投資基準から外れた

名越稔洋氏は、セガに約30年在籍し『スーパーモンキーボール』『JUDGE EYES/ジャッジアイズ』、そして『龍が如く』シリーズを率いた、日本ゲーム業界でも屈指の名物プロデューサーだ。2021年にセガの全役職からの退任を発表して業界を驚かせ、翌2022年、セガ時代の中核メンバーとともに名越スタジオを設立した。資金はNetEaseが全額を出した。大手の論理から離れて新規IPを作る。そんな船出に、多くのプレイヤーが期待を寄せた。

ただ、その自由には代償もあった。スタジオ設立から最初のタイトル公開まで3年以上かかり、公開後も発売時期は示されないまま。映画のような演出と著名俳優を起用した『GANG OF DRAGON』の制作費は推定4,000万ドル(約60億円)を超え、そこへさらに70億円が必要という見通しが重なった。NetEaseは近年、海外向けの長期投資を見直す保守的な姿勢に傾いていた。コンソール/PC向けの単独パッケージ作品は、モバイルや運営型ゲームに比べて投資の回収サイクルが長い。3年を費やしてなお巨額の追加費用がかかる単独プロジェクトは、もはやNetEaseの投資基準には収まらなくなっていた。

🇯🇵 『龍が如く』の系譜が宙に浮く——日本の作家性と中国資本のすれ違い

このニュースは、日本のゲーム業界にとって他人事ではない。歌舞伎町を舞台にした硬派なストリートアクションという題材は、誰の目にも『龍が如く』の延長線上にある。セガの外で、その系譜を継ぐ大型作品が生まれるかもしれない。そう期待されていたものが、発売前に止まりかけている。

背景にあるのは「中国資本 × 日本の名プロデューサー」という組み合わせの構造的なきしみだ。近年この座組は一つの流行になったが、うまくいった例はそう多くない。日本のトップクリエイターは作り込みと作家性を優先し、そのぶん時間と資金を要する。一方で中国の出資側は、明確な商業スケジュールと読める収益モデルを重視する。両者の期待値がずれたまま規模と資金ギャップが膨らめば、決裂のリスクは上がっていく。『ストリートファイター』を手がけた岡本吉起氏がSNSで「セガの懐に戻るのも選択肢では」と冗談まじりに語ったのも、業界がこの一件を深刻に受け止めている裏返しだろう。皮肉なのは、名越スタジオが「大企業からの自由」を掲げて出発しながら、結局は一社の出資判断に運命を握られていた点だ。

🏁 名プロデューサーでも、資金の蛇口を他社に握られれば作品は消える

『GANG OF DRAGON』はまだ完全に終わったわけではない。Steamのストアページは生きており、新たなパブリッシャーや出資者が現れれば復活の芽は残る。とはいえ、サイト閉鎖・YouTube削除・3カ月以上のSNS沈黙という現状の信号は、どれも厳しい。もしこのまま発売されなければ、今世代でも有数の「幻に終わった大作」になる。

この件が突きつけるのは、シンプルだが重い現実だ。どれほど実績のあるプロデューサーでも、資金の蛇口を一社に握られていれば、その一社の判断ひとつで作品は消える。作家性や30年のキャリアは、資金構造の前では無力になりうる。名越スタジオの行方は、日本のクリエイターが海外資本とどう組むべきかを考える、生々しい教材になっている。