📊 3行サマリー

  • ロシア発の歌の祭典「インタービジョン」第2回が、2026年9月にサウジアラビアの首都リヤドで開かれる。初回モスクワ大会には23カ国が出場した。
  • ロシアのオベルチュク副首相は2025年11月、APECに集まった18の国・地域へ出場を呼びかけた。その招待リストに日本の名前が入っていた。
  • ただし日本は初回2025年大会に参加していない。G7の一員として、プーチン政権が後ろ盾の舞台にJ-POPが立つ現実味は薄い。

サウジが9月にロシア発「インタービジョン」を初開催、招待18カ国に日本が入った

サウジアラビアが2026年9月、ロシア生まれの国際歌唱コンテスト「インタービジョン(Intervision)」をリヤドで開く。ロシアのテレビ局が主導してきた大会を、湾岸の産油国が引き受ける格好だ。前年9月にモスクワで開かれた復活第1回は20カ国を超える歌手が競い、開催地が次のサウジへ引き継がれた。

日本にとっての引っかかりは、招待リストだ。ロシアのオベルチュク副首相は2025年11月、APEC(アジア太平洋経済協力)に参加した18の国・地域に2026年大会への出場を呼びかけた。オーストラリア、カナダ、中国、韓国、米国などと並んで、そこに日本も名を連ねている。文化イベントの招待状が、外交のテーブルから配られた形になった。

Arab News:初回モスクワ大会は23カ国が参加、ベトナムが賞金約5,400万円で優勝

元ネタSaudi Arabia to host second edition of new song contest Intervision in 2026(Arab News / 2025年9月21日)

The 2026 edition in Saudi Arabia is expected to attract record participation, with innovative performances that highlight cultural heritage and creativity.

Arab Newsによると、2025年9月20日のモスクワ大会にはベラルーシ、ブラジル、中国、エジプト、インド、カタール、ロシア、サウジ、ベトナムなど23カ国の歌手が出場した。優勝はベトナムのドゥック・フック(Duc Phuc)で、賞金は3,000万ルーブル(約36万ドル、日本円でおよそ5,400万円)。2位はキルギスのノマド・トリオ、3位はカタールのダナ・アル・メールだった。サウジ代表のゼイナ・エマドは「Just a Concern」という新曲を披露している。

政治の影も濃かった。米国枠で出るはずだった歌手は、本番直前に「オーストラリア政府からの政治的圧力」を理由に出演を取りやめた。プーチン大統領はビデオメッセージで「伝統的価値観と多様な文化への敬意」を大会の旗印に掲げている。

ユーロビジョン追放のロシアが作った対抗軸を、ビジョン2030のサウジが受け皿に

そもそもインタービジョンは、冷戦期に東側陣営が開いていた歌の大会の名前だ。ロシアがウクライナ侵攻を受けて欧州の「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」から締め出されたあと、プーチン氏が2025年に大統領令で復活させた。ロシアはユーロビジョンを「退廃的」と切り捨て、自前の国際舞台として打ち出している。

その2回目をなぜサウジが引き受けるのか。背景には、脱・石油依存を掲げる国家戦略「ビジョン2030」がある。サウジはエンタメへの投資を国家の柱に据え、eスポーツの世界大会やアニメイベント、大型音楽フェスを次々に招致してきた。インタービジョンも、その「世界の文化ハブを目指す」流れの一本だ。サウジの音楽委員会(Music Commission)が運営に関わる。

ただし足元は平坦ではない。中東情勢の緊張を受けて、2026年3月にはサウジ側が「中止はしない」と表明する一方、4月にはロシアが大会をめぐるサウジとの接触を一時停止したと明かした。2026年5月時点で出場を内定しているのは、ベラルーシ・ブラジル・ロシア・サウジのわずか4カ国にとどまる。

日本は2025年も不参加。J-POPの海外戦略はコーチェラ型で、国家主導の歌合戦と噛み合わない

では日本はどうするのか。結論から言えば、出場の見通しは立っていない。日本は招待された18カ国・地域の一つだが、初回2025年大会には代表を送っていないし、2026年についても態度を明らかにしていない。

理由はいくつか重なる。まず日本は、欧州のユーロビジョンにも国として参加してこなかった。国を背負って歌を競う仕組み自体が、日本の音楽産業の体質と合いにくい。さらにインタービジョンはロシア政府が旗振り役で、対ロ制裁を続けるG7の一員である日本にとって、政府がらみで関わるには筋が悪い。米国枠が「政治的圧力」で消えた前回の一幕は、この大会が純粋な音楽イベントとして見られていない現実を示している。

そして何より、いまのJ-POPは別のルートで海外に出ている。YOASOBIやAdoはコーチェラやロラパルーザといった欧米の巨大フェスに立ち、XGや日本発のグループはアジア市場とストリーミングで支持を広げてきた。アーティスト個人がファンの熱量を直接つかむやり方が主流で、国家代表として歌合戦に出る発想とは噛み合わない。招待リストに日本が載ったのは、出場が見込めるからというより、「これだけ多くの国に声をかけた」というロシア側の演出の側面が大きいとみるのが自然だろう。

もっとも、見方を変えれば惜しいとも言える。サウジは日本コンテンツの大口の買い手で、アニメや音楽への投資にも積極的だ。中立的に評価するなら、政治リスクを避けたい日本の判断には理があり、一方で巨大な新市場での露出機会を一つ見送っている、という両面がある。

日本の名が載った招待状は、文化と地政学が交わる試金石になる

つまりこういうことだ。ロシアが作りサウジが引き継ぐ歌の祭典に、日本は招待状を受け取ったが、立つ舞台ではないと静かに距離を置いている。9月のリヤド大会で日本の旗が掲げられる可能性は低い。それでも、誰が出て誰が出ないかという顔ぶれそのものが、いまの世界の線引きを映す。音楽の話のようでいて、実は地政学の地図を読む材料になっている――この招待状は、そういう一枚だ。