「世界観そのものを競争力に」——韓国3社が同時に動き出した理由
2026年2月、クラフトンがプレイステーション・ステート・オブ・プレイで発表した新作「プロジェクト・ウィンドレス」は、韓国の作家イ・ヨンドによる小説『涙を飲む鳥』を原作とするオープンワールドアクションロールプレイングゲームだ。同作は発表から20年以上のファンベースを持つ韓国文学の名作で、ゲームには「斗牛」(トゥッキェ)や「独楽帽子」(トッケビ帽)などの韓国伝統要素が随所に盛り込まれている。
時を同じくして、ネクソンゲームズは韓国古典『田禹治伝(チョン・ウチジョン)』をベースにした「ウチ・ザ・ウェイファラー」を開発中だ。架空の朝鮮時代を舞台に、トッケビやクミホなどの伝統妖怪を現代的に再解釈したアクションアドベンチャーで、映画『パラサイト』や『イカゲーム』の音楽を手がけたチョン・ジェイルが伝統音楽(グガク)ベースのサウンドトラックを担当する。ウィメードマックスも2025年10月に公開した「プロジェクト・タル」のトレーラーがプレイステーション公式ユーチューブで3日間に100万再生を超えた。韓国の伝統仮面と神話を現代的に昇華した同作は、2027年にパソコン・コンソール同時グローバルローンチを予定している。
韓国の主要ゲーム企業3社が、同時に「韓国の世界観を核にしたグローバルコンソールタイトル」を世に出そうとしているのは偶然ではない。これは業界全体の戦略転換を示している。
元記事・原文引用
元ネタ:Game industry puts Korean worldviews front and center as K-narrative race heats up(Digital Today / 2026年)
Major South Korean game companies are unveiling a series of large projects that use Korean folklore and classic literature as core worldviews, aiming to use Korean narratives as a point of content differentiation as K-dramas and K-pop gain global popularity.
モバイルMMORPG依存が生んだ「世界に売れない韓国ゲーム」問題——K-ナラティブはその解答か
韓国ゲーム産業の輸出額は2024年に51億3000万ドルに達し、K-popやK-ドラマを上回る文化輸出産業に成長している。にもかかわらず、国際的な「ゲームブランド」としての韓国の存在感は薄い。理由はシンプルで、韓国ゲームの主戦場がモバイル課金型の大規模多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)だったからだ。
高額ガチャと時間拘束型の設計は、欧米・日本のゲームファンには受け入れられにくかった。クラフトン・ネクソン・ネットマーブルなど大手各社が2024〜2026年にかけてパソコン・コンソール向けプレミアムタイトルへの投資を急加速させているのは、この構造問題への処方箋だ。
そこで差別化の軸として浮上したのが「韓国の世界観」だ。K-ドラマ・K-popを通じて海外に韓国文化のファンが形成され、「ドッケビ」「グミホ」「朝鮮王朝」などのモチーフに一定の親しみを持つ層が生まれた。この文化的土台を活かし、背景装置としてではなく「世界観そのものを競争力」として輸出する——それがK-ナラティブ戦略の本質だ。
日本ゲームが握ってきた「文化輸出」の主導権に変化が生じるか
「自国の神話・伝承・歴史をゲームの世界観に昇華してグローバル市場に輸出する」という戦略は、これまで日本メーカーが最も得意としてきた領域だ。任天堂の「ゼルダの伝説」シリーズが日本の自然観や剣客物語の構造を持ち込み、カプコンの「大神」が日本神話を世界に届けてきた歴史がある。
韓国のK-ナラティブタイトルは、この「文化×世界観×ゲームメカニクス」の組み合わせで日本メーカーと同じ土俵に立とうとしている。注目すべきは品質への投資規模だ。チョン・ジェイル(映画「パラサイト」「イカゲーム」の音楽担当)をサウンドトラックに起用するなど、映像・音楽産業の人材をゲームに呼び込む動きが加速している。
日本のゲームファンの視点では、K-コンテンツへの親しみはすでに形成されている。「イカゲーム」「愛の不時着」などを経由して韓国ファンになった層は、K-ナラティブゲームの潜在的な最初期顧客でもある。クラフトンの「プロジェクト・ウィンドレス」や「ウチ・ザ・ウェイファラー」が2026〜2027年にグローバルリリースされれば、日本市場でどのような反応を示すかは、業界全体にとっての試金石になる。
「追いつく競争」から「世界観を創る競争」へ——K-ナラティブが開く次のフェーズ
韓国ゲーム産業の進化を一言で言えば、「技術で追いつく段階から文化で差別化する段階へ」のシフトだ。K-popが音楽産業でやり遂げたこと——グローバル市場で「韓国発」のブランドを確立すること——をゲーム産業が狙っている。
ただし課題も残る。韓国神話・古典を深く理解しないまま「記号」として消費すれば、文化的深みを欠いたコンテンツになりかねない。プロジェクト・ウィンドレスの原作『涙を飲む鳥』のように、20年以上のファンが付く作品を原作にすることで一定の品質担保を試みているが、「世界観の正確な翻訳」はゲームにおいて最も難しい課題の一つだ。
世界観の輸出合戦で韓国が日本メーカーに肩を並べるとき、ゲームという媒体の「文化表現力」はどこまで広がるのか。その答えは、2027年以降に相次いでグローバルローンチされるK-ナラティブタイトルの評価が示すはずだ。


