【フランス】松本大洋×ペドロサ『南蛮人』、480ページを両側から読む1冊。日本の単行本は10月30日発売

3行サマリー
- 松本大洋とフランスのシリル・ペドロサが共作した『南蛮人』が、480ページ・49ユーロの大型アルバムとして2026年9月4日にフランスで刊行された
- Livres Hebdoは、完成までに7年を要し、初版部数は4万部だと報じている
- 日本版の単行本は2026年10月30日発売で496ページ・8800円(税込)。雑誌連載は4月20日に始まっている
松本大洋とシリル・ペドロサの共作『南蛮人』、480ページの完全版がフランスで9月4日に発売された
1543年の種子島を舞台にした『南蛮人』(仏題 Nanbanjin)が、2026年9月4日にフランスで刊行されました。描いたのは松本大洋と、フランスのバンド・デシネ作家シリル・ペドロサ。版元Dupuisの公式ページによると、480ページのオールカラーで、価格は49ユーロ、判型は310×237ミリのハードカバーです。レーベルは同社が作家性の強い作品を集めている Aire Libre。
変わっているのは製本の方でした。右から開くと松本が描く日本側の物語が進み、左から開くとペドロサが描くポルトガル側の物語が進む。二つは本の中央で合流し、そこで同時に終わります。フランスで tête-bêche(テット・ベッシュ/背中合わせ)と呼ばれる綴じ方で、一冊の本に入口が二つあることになります。
物語の骨格はDupuisの紹介文に示されています。ポルトガル人の船乗りフェルナンドが種子島に漂着し、互いをまったく知らない二つの文化が最初の接触を起こす。彼を助けた村人たち、子どもや老いた元漁師、巫女、侍、盗賊の日常と確信が、その出会いで大きく揺さぶられていきます。
日本では2026年4月20日発売の『ビッグコミックオリジナル』9号から連載が始まっています。ただ、一冊にまとまった形で最初に読めるようになったのはフランスの方でした。
Livres Hebdoは「完成に7年」と報道、RTBFの批評家は「これを境に前と後ができる」と評した
出典:Nanbanjin – Aire Libre(Éditions Dupuis 公式 / 2026年9月4日刊行)
出典:Taiyo Matsumoto et Cyril Pedrosa, « Nanbanjin » (Dupuis)(Livres Hebdo / 2026年8月17日)
出典:« C’est le livre événement de cette rentrée » : Nanbanjin, une BD hors-norme(RTBF / 2026年9月2日)
出典:南蛮人|松本大洋・ペドロサ シリル(小学館 公式 / 2026年10月30日発売)
出版業界誌のLivres Hebdo(8月17日、アンヌ=クレール・ノロ署名)は、この企画について「Sept ans ont été nécessaires à la réalisation de ce projet(このプロジェクトの実現には7年が必要だった)」と書き、初版部数を4万部と伝えています。フランスのバンド・デシネで初版4万部は、作家性の強い大型作品としてはかなり大きな数字です。
ベルギー公共放送RTBFは9月2日、BD批評家ティエリー・ベルフロワの評として次のように伝えました。
Il y aura un avant et un après. C’est clairement le livre événement de cette rentrée.
(これを境に、前と後ができるでしょう。今季を代表する一冊であることは明らかです。)
始まりは2019年のアングレーム、ペドロサが日本語で書いて渡した手紙1通だった
7年という制作期間の起点は、2019年のアングレーム国際漫画祭にあります。RTBFによれば、ペドロサはこの場で松本大洋に宛てた手紙を日本語で用意し、敬意と企画の構想を伝えました。共作はそこから動き出しています。
難しいのはその後でした。二人はどちらも相手の言語を話しません。RTBFは、二人が通訳を介した往復のやり取りだけで、手紙とアイデアと脚本を積み上げていったと伝えています。打ち合わせのたびに翻訳が挟まる体制で7年という説明は、日数の長さよりも工程の重さを物語っていて、正直なところ、よく完走したものだと受け止めました。
では、なぜ一冊に合流する形を選んだのか。ここが作品の作りと主題の噛み合っている部分です。二人が同じ絵柄に寄せて一本の物語を描けば、どちらの視点でもない中間の語り口ができてしまいます。背中合わせの製本は、その妥協を避けるための仕掛けでした。日本側は日本側の読み方向で、ポルトガル側はポルトガル側の読み方向で最後まで進み、中央で初めて相手と出会う。1543年に種子島で起きたことの構造が、そのまま本の物理的な形になっているわけです。
SensCritiqueでは平均8.2点、2026年のBDランキングで11位につけている
刊行から3週間ほどが経ち、フランスの読者側の数字も出始めました。レビューサイトSensCritiqueの『Nanbanjin』のページでは、2026年9月26日時点で59件の採点がつき、平均は10点満点の8.2点。同サイトの「2026年のベストBD」では11位に位置し、209人が「読みたい(envie de lire)」に登録、14件が「coup de cœur(お気に入り)」として記録されています。刊行3週間の作品で、採点数に対して評価が高く出ているのが印象的でした。
投稿されたレビューの見出しには、「1543, deux mondes se découvrent(1543年、二つの世界が互いを発見する)」「Regard croisé par deux grands dessinateurs(二人の偉大な描き手による交錯する視点)」といった言葉が並びます。個々の投稿は匿名なので、そのまま事実の根拠にはできません。それでも、書き手の組み合わせと480ページという物量、視点が交差する構造に触れる感想が多い、という傾向は読み取れます。
批評側は手放しではありません。Livres Hebdoの書評は、二人の画風が互いを補い合っている点と、他者性・寛容・友情というテーマの扱いを評価して「二重の傑作」と結んだうえで、登場人物の言葉づかいに時代設定と合わない選択があると指摘しています。7年かけた企画に対して、褒める点と引っかかった点を分けて書く。こうした批評が出てくること自体が、この本の受け止められ方を示していると感じます。
日本版『南蛮人』は10月30日発売、496ページ8800円のフルカラーで刊行される
日本の読者にとっての本題はここからです。小学館の公式ページによると、単行本『南蛮人』は2026年10月30日発売、496ページ、B5判、価格は8800円(税込)。「両者渾身のフルカラーで描かれる」と記載され、「右開きで日本側の物語が、左開きでポルトガル側の物語が進み、本の中心でエンディングを迎える」と、フランス版と同じ構造であることが明示されています。
フランス版の480ページ・49ユーロに対して、日本版は496ページ・8800円。ページ数の差は判型と版面の違いによるものとみられますが、「一冊で完結する二方向の本」という設計はどちらも共通しています。オールカラー480ページ超という仕様は、日本の隔週誌の単行本では例の少ない形です。8800円という価格も、通常のコミックスというより画集や大型アートブックの帯に入ります。買いやすい本ではありません。
連載媒体は『ビッグコミックオリジナル』で、9号(2026年4月20日発売)からのスタートでした。松本大洋にとっては『東京ヒゴロ』以来の大型作品にあたり、今回は共作者として海外の作家が並びます。日本の漫画家が海外のBD作家と対等な立場で一冊を折半する例は、翻訳出版やアンソロジー参加とはまったく別の話で、かなり珍しいものです。
本の中央で二つの物語が出会う構造が、そのまま1543年の主題になっている
『南蛮人』がフランスで話題になっているのは、松本大洋の名前が知られているからだけではありません。評価されているのは、異文化接触という主題を、製本という物理的な形にまで落とし込んだ設計の方です。どちらの側も相手に寄せず、最後まで自分の読み方向で進み、中央で出会う。互いの言語を話さないまま7年かけて作られたという経緯も、この形と矛盾していません。
フランスでは初版4万部(Livres Hebdo報道)で走り出し、読者の採点は9月26日時点で平均8.2点。日本では10月30日に496ページの単行本が出ます。同じ一冊が二つの市場でどう受け取られるかは、発売後の反応を見てからの話になります。少なくともフランス側では、今季の一冊として扱われる位置に届きました。
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