【インド】『きっと、うまくいく』のマドハヴァン、20歳の息子の世代が日本アニメに流れたと嘆く。インドはアニメを見る人が世界3位

3行サマリー
- インドの俳優R・マドハヴァンが7月18日、20歳の息子の世代について「日本のアニメと韓国コンテンツを見ていて、タミル映画もヒンディー映画も劇場には来ない」と発言
- インドはアニメを見る人の割合が41%で、日本・中国に次ぐ世界3位。2020年から2025年の伸び率は30%超
- 『鬼滅の刃 無限城編』はインド公開31日で8億3100万ルピーを稼ぎ、それまでの日本アニメ映画の現地記録を8倍に更新した
マドハヴァン「息子の世代は、うちのタミル映画を見たいとすら思っていない」
インドの俳優R・マドハヴァンが、自分の息子の世代について不安を口にしました。日本では『きっと、うまくいく』のファルハーン役で知られる人です。
中身は、インド映画界にとってなかなか痛いものでした。20歳になる息子ヴェーダーントの世代は日本のアニメと韓国のコンテンツを見ていて、インド映画は劇場どころか家でも見ない。しかもこれを、自分の新作の宣伝をしている最中に言っています。
Cinema Expressの取材で出た本音。8月7日公開の主演作を宣伝する場だった
元ネタ:Here’s Why R Madhavan Feels Son Vedaant’s Generation Is Disconnected From Indian cinema(Asianet Newsable / 2026年7月18日)
“They’re watching Japanese anime, they’re watching Korean content. But they don’t even want to watch our Tamil movies.”
「日本のアニメを見て、韓国のコンテンツを見ている。でも、うちのタミル映画は見たいとすら思っていない」。マドハヴァンがこう話したのはCinema Expressのインタビューで、8月7日に世界公開される主演作『GDN』の宣伝期間中でした。コインバトールの発明家・実業家G・D・ナイドゥを描いた伝記映画で、もとは7月公開の予定が1カ月ずれています。
彼は「今までは息子の尊敬を勝ち取ってきた」と前置きしたうえで、若い世代とインド映画のあいだに断絶がある、それが大きな問題だと続けました。話の締めは作り手側への問いかけです。「語り手として、監督として、俳優として、我々はどれだけ人を奮い立たせられているのか」。愚痴というより、業界内部に向けた自問でした。
インドのアニメ視聴率41%は日本・中国に次ぐ3位。5年で30%超の伸び
マドハヴァンの実感には、数字の裏づけがあります。
東京の調査会社GEMパートナーズが4月16日に出した『アニメ グローバル白書2026』では、15カ国1万5000人を対象にした調査でインドのアニメ視聴率は41%でした。日本の55%超、中国の約42%に次ぐ3位です。2020年から2025年の伸び率は30%を超えていて、インドと韓国が世界で最も伸びた2市場になりました。市場規模のほうは2024年に10億9800万ドル、IMARCの予測では2033年に29億3000万ドルまで伸びます。
この伸びを作ったのは吹き替えでした。Netflixインドが2020年に『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』からヒンディー語吹き替えを始め、クランチロールが2023年にライブラリの大半を現地語化しています。クランチロールのアジア太平洋・インド地域マーケティング責任者アクシャット・サフによれば、『呪術廻戦』や『チェンソーマン』ではヒンディー語吹き替えの視聴者が英語版を上回りました。同社の集計では、インドのアニメ視聴の65%超が吹き替え経由です。
劇場でも同じことが起きています。『鬼滅の刃 無限城編』は2025年9月12日にインドで公開され、31日間で8億3100万ルピーを稼ぎました。それまでインドで最も稼いだ日本アニメ映画の8倍です。
現地の反応は同意が主流。「うちの息子もボリウッドを知らない」という親の声
Xでこの発言を追うと、反発より同意のほうが目立ちます。
ある投稿者は「マドハヴァンに同意せざるを得ない。うちの息子たちもボリウッドをまったく知らない」と書き、例外的に見た作品として『Dhurandhar』を挙げていました。地方語映画では『Lokah』や『バーフバリ』のような一部が好みに合うだけで、あとは配信のアニメか、劇場なら海外作品だそうです。
別の投稿は、この発言を「若者を映画館に呼び戻すにはもっと人を奮い立たせる物語が要る、という主張」として整理していました。Times of Indiaをはじめ大手紙も見出しを立てていて、18日から数日、インドの映画クラスタでは定番の話題になっています。
気になったのは、誰も「日本のアニメが悪い」とは言っていないことです。批判の矛先は一貫してインド映画の作り手のほうを向いていました。
日本のアニメは、インドの若者を現地語の吹き替えで先に押さえた
日本側から見ると、この話は輸出戦略がうまくいった例として読めます。
インドの人口は14億人を超え、若年層の比率が高い市場です。そこに日本のアニメは、英語圏を経由せずヒンディー語・タミル語・テルグ語で直接届きました。クランチロールのマルクス・ゲルデマンは、今後数年の世界的なアニメ需要の増加分の60%をインドが占めると見ています。
マドハヴァンが嘆いた「息子がタミル映画を見ない」という状況は、裏返せば、タミル語に吹き替えられた日本のアニメが、タミル語で作られたインド映画から視聴時間を奪っているということです。言語の壁を越えた結果ではなく、先回りして越えた結果でした。同じことを日本の実写ドラマや音楽がインドでやれている例は、まだほとんどありません。
とはいえ日本のアニメ会社にとって、手放しで喜べる話でもありません。インド市場は単価が低く、視聴時間が伸びてもそのまま収益にはなりにくい。クランチロールが現地語の吹き替えに投資を続けているのは、いまの利益ではなく10年後の有料会員を取りに行っているからです。
インド映画が失ったのは観客ではなく、若者の時間の使い方
マドハヴァンの発言を一文にすると、インド映画は観客に飽きられたのではなく、若者の可処分時間の配分から外れた、ということになります。
劇場に行かないのは映画がつまらないからではなく、スマホに週1話ずつ届くアニメのほうが生活のリズムに合っているから。彼が「もっと人を奮い立たせる物語を」と言うのは筋が通っていますが、問題が物語の質だけにあるとは限りません。配信の速さ、現地語対応、1話20分という単位。日本のアニメがインドで勝っている部分の多くは、物語の外側にあります。
『GDN』が8月7日に公開されたとき、20歳の息子たちが劇場に来るかどうか。マドハヴァン本人にとっても、答えは1カ月足らずで出ます。
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