どんなニュース?
2025年末から激化した日中外交危機が、ゲーム業界を静かに揺さぶっている。発端は日本の高市早苗首相が「台湾統一時に軍事介入する可能性」を示唆したとされる発言。中国はこれに強く反発し、日本への航空便キャンセル、水産物輸入停止、そして日本映画の審査一時停止という「文化ボイコット」を展開した。
ゲーム業界でも動きが出始めた。中国最大のゲーム会社・miHoYo(HoYoverse)は人気スマホゲーム「崩壊:スターレイル」で、長らく予告していた日本風の世界「弁財天国(Benzaitengoku)」の名称を突如「Planarcadia」に変更し、アップデートを2週間延期。公式には技術的な理由を挙げたが、ゲーマーの間では「日中外交への忖度」という解釈が広まっている。
問題の核心はここにある——中国における日本ゲームの輸入承認は、全外国ゲーム承認の約30%を占める最大シェア。韓国がTHAAD問題で約6年間ゲーム承認を実質凍結された前例を踏まえると、「次は日本ゲームの番か」という懸念が業界内で渦巻いている。
元記事・原文引用
元ネタ:Could China Restrict Japan Game Approvals?(GAMES.GG / 2025年11月28日)
“Japan is China’s largest source of foreign game approvals, accounting for about 30 percent of licensed imports over the last two years.”
なぜ今、話題になっているの?
この問題の根幹は「中国が文化コンテンツを外交の武器として使う」という確立したパターンにある。その構造を理解するには、2017年の韓国THAAD事件を振り返る必要がある。
韓国がTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)システムを配備した際、中国は韓国のゲームに対して承認を事実上停止した。しかも「公式に禁止した」わけではない——ただ審査を通さないだけ。これが巧妙な点だ。外交的に否定しやすく、相手国への圧力として機能する「消極的制裁」の手法であり、この凍結は2023年まで約6年間続いた。
今回の日中危機では、ゲーム以外の文化分野からすでに制裁が始まっている。日本映画の審査停止、ポケモンTCG大会の延期(2026年1月・上海)、スタジオジブリ展の中止(広州)、初音ミク展示の無期限延期(上海、2025年12月〜2026年3月予定)——「日本文化」を中国から切り離す動きが静かに進んでいる。
そしてゲーム内でも、「崩壊:スターレイル」の日本文化に基づく世界名が削除された。さらに「ゼンレスゾーンゼロ」では特定のストーリークエストから日本語・英語・韓国語のボイスが削除。いずれも公式には理由を明かしていないが、日中関係との関連を指摘する声が多い。
なぜこれほどゲーム業界にとって深刻なのか。それは中国市場の規模にある。外国ゲームの販売には国家新聞出版総署(NPPA)の承認が必須だ。日本は過去2年で外国ゲーム承認の約30%を占めており、任天堂・カプコン・スクウェア・エニックスなど大手企業の中国市場収益が一気に消える可能性がある。
中国ではどう報じられているか
中国国内では、この問題への反応が鋭く割れている。
微博(Weibo)やゲーマーコミュニティでは大きく3つの声が見られる。ナショナリスト層は「当然の制裁。日本が立場を改めるまで日本コンテンツは不要」と支持する。一方、日本ゲームファンたちは「ポケモンに罪はない」「政治とゲームを混同するな」と反発し、「ピカチュウは中国語しか喋れないのになぜ規制されるのか」という皮肉のコメントも相次いだ。そして中国ゲーム業界関係者の間では、日本との共同開発プロジェクトや提携関係がどうなるかについて、公言できない不安が静かに広がっているという。
最も注目すべきはmiHoYoの動きだ。政府から公式命令が出たわけではないのに、同社は自主的に「弁財天国」の名称を変更した。これは中国企業特有の「空気を読んだ自己検閲」——政府の意向を企業が先読みして従う構造を如実に示している。公式声明では「よりよいプレイヤー体験のため」とだけ述べ、政治的背景には一切触れていない。
中国メディアはこの問題を大きく取り上げることを避けている。政府の方針と「日本ゲームを愛するユーザー感情」の板挟みになるからだ。結果として、状況は静かに進行している——公式には何も起きていないが、イベントは次々と延期・中止になっている。この「見えない制裁」こそが、中国の文化外交の最も不気味な側面だ。
まとめ
現時点で、中国は日本ゲームの承認を公式に停止してはいない。しかし「止まってはいないが、止まるかもしれない」という不確実性そのものが、業界に大きな影を落としている。
構造を整理するとこうなる——中国は文化ボイコットを外交ツールとして確立しており、ゲームはすでにその対象領域に入りつつある。miHoYoの自己検閲は「政府命令がなくても企業が忖度する」という中国的メカニズムの証左だ。そして韓国の前例は、いったん承認が凍結されれば数年単位で続くことを示している。
日本のゲーム会社にとって、中国市場は「失ったら取り返せない規模」だ。任天堂・カプコン・スクウェア・エニックスは今、固唾を呑んで日中関係の推移を見守っている。文化ボイコットの問題はもはや「if(もし起きたら)」の話ではなく、「when(いつ起きるか)」の問いになりつつあるのかもしれない。


