📊 3行サマリー
- ベトナム公安省が5月5日に公表した偽ニュース規制の第3次改正案は、国家指導者を狙う偽情報を「害が大きい」、一般市民を狙う偽情報を「害が小さい」と、2段階に分けた
- この分類は2月13~22日の意見公募が終わった後に追加されたため、市民はこの条文に公式に意見を出せない
- 偽情報やAI偽動画の規制は日本でも夏の参院選をにらんで議論が続き、「何を害とみなすか」の線引きが、誰を守る制度になるかを左右する
📝 ベトナム公安省、偽ニュースを「指導者標的は重い害・市民標的は軽い害」に2段階分類
ベトナム公安省(MPS)が5月5日、偽ニュースと虚偽情報の取り締まりを定める政令案の審査資料を公表した。今回で3度目の改正となる案には、これまでなかった分類が一つ加わっている。改正された第4条は、国家や共産党、上級指導者の安全保障や評判に大きな悪影響を与えうる偽情報を「害が大きい情報」、個人や組織の権利に限られた範囲で影響する偽情報を「害が小さい情報」と定義した。同じ「嘘」でも、標的が誰かで深刻度の格付けが変わる仕組みだ。
📰 The Vietnamese報道:2段階分類は意見公募の締め切り後に追加された
元ネタ:Việt Nam Drafts Fake News Decree: Ministry of Public Security Classifies Violations by Harm Level(The Vietnamese Magazine / 2026年5月11日)
a classification system that categorizes fake news targeting state leaders as “high harm” while labeling fake news targeting everyday citizens as “low harm.”
独立系メディアのThe Vietnamese Magazineは、この分類が公安省の当初の草案には含まれていなかったと指摘する。公安省が最初の草案を公開して意見を募ったのは2月13日から22日まで。その後、国家銀行や内務省、最高人民検察院といった他の国家機関から非公開の意見を受け取り、その結果として5月5日の審査資料に害の格付けが書き加えられた。意見公募はもう終わっているので、この新しい条文に市民が公式に意見を述べる機会はない。
🔥 意見公募は旧正月の10日間、市民が新条文に声を届ける窓は閉じている
手続きの順番に違和感が残る。最初の意見公募は、ベトナム最大の祝日であるテト(旧正月)と重なる2月13~22日に設定された。多くの人が帰省し、政策文書を読み込む余裕のない時期だ。そして肝心の害の格付けは、その公募が閉じた後に登場した。The Vietnameseによれば、ベトナムで「偽ニュース」「虚偽情報」と判定されてきた内容には、共産党や政府、指導者への批判がたびたび含まれてきた。批判する声を「害が大きい」側に寄せ、市民個人を傷つける偽情報を「害が小さい」側に置く。この線引きだと、規制の重さが「真実かどうか」ではなく「誰の体面が傷つくか」で決まることになる。個人を狙う詐欺やデマよりも、権力者に向かう批判のほうが重く扱われかねない。
🇯🇵 日本も偽情報規制を議論中、「何を害とするか」の定義が制度の性格を決める
日本にとって遠い話ではない。日本でも選挙のたびにAIの偽動画や偽情報が問題になり、夏の参院選をにらんで規制の議論が進む。ベトナムの政令案が教えてくれるのは、偽情報規制をつくるとき最初に決めるべきは罰金の額でも削除までの時間でもなく、「何を害とみなすか」の定義だという点だ。害の定義が「国家や指導者の評判」に寄れば、その制度は権力を守る道具になる。「市民が騙されて損をすること」に寄れば、生活者を守る道具になる。同じ「偽情報対策」という看板でも、中身は正反対になりうる。日本で規制を設計するなら、罰則の強さよりも先に、誰の不利益を基準に害を測るのかを確かめておきたい。
🏁 偽ニュース規制の本質は「真偽の判定」から「誰の不利益か」へ動いている
ベトナムの第3次改正案を読むと、偽情報規制の性格が変わりつつあるのがわかる。「真実かどうかを判定する制度」から「誰の不利益を重く見るかを決める制度」へ、という変化だ。しかも害の格付けは、市民への意見公募が閉じた後に足された。制度の性格を左右する条文が、市民の目の届かないところで決まったことになる。偽情報対策は本来、騙される人を減らすための仕組みのはずだ。その基準が権力の体面のほうを向いていないか。どの国の規制案も、まずそこを読む必要がある。


