📊 3行サマリー
- EU市民イニシアチブ「Stop Killing Games」が144万8,270筆の署名を集め、5月21日に欧州議会で正式討論。6月16日にEU委員会が公式回答を出す。
- 4月16日のブリュッセル公聴会で「反対した議員は1人もいなかった」と組織者が報告。要求の核は購入後ゲームのオフライン化義務化とサーバーコードの公開。
- 業界団体Video Games Europe(任天堂・SEGA・Square Enix・Bandai Namco加盟)は反対声明を維持。日本のオンラインゲーム・ソシャゲのEU展開が制度化リスクに直面する。
📝 「ゲームを殺すな」EU市民イニシアチブ、144万署名で5月21日欧州議会討論
EUで「Stop Killing Games」(直訳:ゲームを殺すな)と名付けられた市民イニシアチブが、5月21日に欧州議会の正式討論にかけられる。集まった署名は144万8,270筆、うちEUが検証済みの有効署名は129万4,188筆。European Citizens’ Initiative(ECI)として要件の100万筆を大きく上回り、6月16日にはEU委員会が公式回答を出すと、5月7日のIMCO委員会でMcGrath委員から明言された。
要求の中核は3点。サーバー停止後でも遊べるオフラインモードの実装義務化、サーバーコードのオープンソース公開、それらが間に合わない場合の代替手段の事前提示。「購入したゲームを、メーカーが後から一方的に消滅させる行為を止めろ」というデジタル消費者保護の枠組みである。
📰 PC Gamer:4月16日公聴会で「反対した議員は1人もいなかった」と異例の評価
元ネタ:Stop Killing Games delivers ‘absolutely incredible’ hearing in European Parliament(PC Gamer / 2026-04-17)
4月16日にブリュッセルで開かれた欧州議会公聴会で、提唱者Ross Scottと組織者Moritz Katznerが直接議員に説明した。委員会副委員長Nils Ušakovsは「数億のEU市民にとっての懸念」と評価。コンサルタントDaniel Ondruškaの指摘が議論を象徴した。
Games that were developed 20 years ago still function. Games that were developed three years ago, as it was mentioned before, don’t.
(20年前に作られたゲームは今も動く。3年前に作られたゲームは動かない。)
Katzner自身は公聴会後の記者会見で「肯定的に反応しなかった議員は1人もいなかった。委員会も非常に好意的だった」と振り返った。ECIの審議としては異例の追い風。Scottは「これで終末オフライン化の予算を出さない言い訳はできない」と業界側に挑戦状を投げた格好だ。
🔥 The Crew・Babylon’s Fall・Concord——3年で続いた”購入後消滅”が立法を動かした
運動の発端は、2024年にUbisoftが『The Crew』のサーバーを停止し、購入済ユーザーがプレイ不能になった事件。シングルプレイ要素が大半なのに常時接続必須という設計が消費者団体の怒りを買った。その後、「購入後消滅」事例は止まらなかった。
- 『Babylon’s Fall』(Square Enix/PlatinumGames、2022年3月3日発売)は2023年2月27日にサーバー停止。発売から1年未満で全プレイヤーが遊べなくなった。Steam同接ピークは1,200人未満
- 『Concord』(Sony/Firewalk Studios、2024年8月23日発売)は9月6日サーバー停止、わずか2週間。Ross Scottは公聴会で「Sonyが3億7,000万ユーロをConcordに投じられるなら、終末オフライン化の予算は出せる」と発言した
「20年前の単体ゲームは今も動くのに、なぜ最新のオンラインゲームは3年で消えるのか」。Ondruškaの問いは、技術問題ではなく設計判断・経営判断という構造を突いた。EU議員側はこの構造論に共感したわけだ。
🌏 業界団体Video Games Europe(任天堂・SEGA加盟)は「ゲーム設計が萎縮する」と全面反対
業界ロビー団体Video Games Europe(Nintendo、SEGA、Microsoft、Square Enix、Bandai Namco、Ubisoft等を含む)は2025年7月の公式声明でECIへの反対を明確化した。論点は3点に整理できる。
- 永続的サポート義務化はゲーム設計を萎縮させる(chilling effect)。採算ラインが厳しくなり、欧州でのライブサービス展開リスクが上がる
- 既存ライセンス処理との不整合。BGM・声優・キャラクターIPの権利契約はサーバー終了後のソース公開を想定していない
- セキュリティ。オープンソース化で不正利用やチート開発が容易になる
ただPC Gamerが指摘するように、議員側はこの反対論を共有していない。McGrath委員(IMCO)は5月7日の構造的対話で6月16日に公式回答を出すと明言済み。業界ロビーが残された3週間でどこまでの修正案を示せるかが分水嶺になる。
🇯🇵 日本のオンラインゲーム・ソシャゲEU展開への波及条件
日本ユーザーには遠い話に見えるが、日本企業は3つの形でEU規制の影響を受ける。
1つ目は直接的な規制適用。Square Enixの『FFXIV』『DQ X』、Bandai Namcoの『鉄拳8』ランクマッチ等、欧州でも展開するMMO・対戦ゲームのサーバー終了プロセスがEU法で縛られかねない。2つ目は間接的な波及。HoYoverse『原神』のような欧州展開する同型ソシャゲは、運営開始時点で「終末計画書」を事前提示するよう条件化されうる。3つ目は設計面。「サーバーコード公開可能なアーキテクチャ」を初期から要件化されると、ガチャや季節イベントといった収益モデルの一部改修が要る。
ECI自体には法的拘束力はない。ただ欧州委員会が応じれば改正法案や指令の起点になる。GDPRもECIをきっかけに具体化された前例があり、PEGI 16+のガチャ規制も同じ流れの先にある。日本ゲーム業界がGDPR時に対応コストを払ったのと同じ構図が、5年遅れで再来する可能性は十分ある。
🏁 6月16日のEU委員会回答が決める、デジタル消費者保護の次の戦場
5月21日の議会討論、6月16日のEU委員会回答、7月27日の最終判断期限。今後2か月半で、欧州のデジタル消費者保護は「ガチャ規制」の次の標的を確定させる。任天堂・SEGA・Square Enixがロビー反対を維持できるか、それとも欧州委員会が業界要請を退けて指令案に進むか。
日本のオンラインゲーム業界にとっては、規制案の細部(適用範囲・経過措置・既存タイトルの扱い)が6月16日以降に明らかになる。GDPRのときと同じく、対応コストを誰がいつ払うかの議論が日本国内でも本格化する。注視必須。


