1日300万冊が売れるプラットフォームで、市場全体が縮んでいる
2025年第1四半期、中国の動画SNS「抖音(Douyin)」で1日平均300万冊以上の書籍が販売された。ライブ配信経由の書籍日販売額は前年比56%増、ライブ配信を開設した出版・書籍関連事業者数は同45%増——数字だけ見れば、空前の読書ブームが到来したように見える。しかし実態は逆だ。中国の書籍小売市場全体は2024年に前年比1.52%の縮小を記録した。ライブ配信は書籍の「売り方」を変えたが、本を読む人の数を増やしたわけではない。起きているのは成長ではなく、縮む市場における流通チャネルの激烈な奪い合いだ。
元記事・原文引用
元ネタ:图书消费升温,抖音电商一季度日均售书300万册(上游新聞(テンセント) / 2025年4月21日)
「一季度,該平台日均售出圖書超300万册,『00後』在直播購買圖書熱情高漲,其買書消費額同比激増206%」(第1四半期、同プラットフォームの1日平均書籍販売数は300万冊超に達し、2000年代生まれ世代のライブ配信経由の書籍購買消費額は前年比206%増と急増した)
「書店→読者」から「ライバー→読者」へ——流通構造が書き換えられた背景
中国の書籍流通に何が起きたのか。構造を要約すると、「生産者→書店→読者」という既存の流通経路が、「生産者→インフルエンサー(ライバー)→読者」という経路に急速に置き換わりつつある。その象徴が著名ライバーの董宇輝(ドン・ユーフイ)氏だ。同氏は2024年、2021年ノーベル文学賞受賞者アブドゥルラザク・グルナ氏をライブ配信に招き、100分間で11万冊以上の書籍を販売した。同じく人民文学雑誌の4時間ライブ配信では120万冊以上の部数が売れた記録もある。こうした「爆発的な1日」は実体書店が1年かけても届かない数字を瞬時に達成する。その結果として起きているのが、書籍業界全体の力学の変化だ。短動画電商チャネルは2023年の時点で中国書籍小売市場の26.67%のシェアを占め、実体書店(12%)を大きく引き離した第2位の販売チャネルになった。
諸刃の剣——出版社が依存するほど利益率が削られる構造
ライバー経由の販売拡大は、出版社にとって必ずしも喜ぶべき変化ではない。「一部の出版社が見かけ上の成長を遂げていても、それは単なる市場シェアの再分配にすぎない。パイ全体は縮んでいる」——英語メディア「The World of Chinese」が中国出版関係者から取材したコメントは、業界の本音を端的に示している。問題の核心は価格競争だ。ライブ配信プラットフォームでは「最安値保証」が常態化し、書籍1冊あたりの利益率は極限まで圧縮されている。さらにライバーが推すのは既存のベストセラーや売れ筋タイトルに偏り、新人作家の新刊や実験的な作品が流通に乗る機会は減少している。ライブ配信が中国の書籍市場に生み出しているのは、「新しい読者の獲得」ではなく、「既存の読者がどこで本を買うかの選択」に影響する変化なのだ。
日本の出版界が中国から読み取れること
日本でも、SNS経由の書籍発見・購買の流れは着実に育っている。X(旧Twitter)の「本好きアカウント」やYouTubeの書評動画、TikTok経由のビジネス書紹介が若い世代の購買を動かす事例は増えた。日本の出版市場も、書店の閉店が加速するなか、インターネット書店と電子書籍が拡大し、流通の主軸は確実にデジタルへと移行している。中国の抖音書籍市場が示す教訓は2つだ。第一に、デジタル流通の拡大は「市場全体の成長」と必ずしも一致しない。第二に、インフルエンサー依存の強まりは「誰が何を読むか」の意思決定権を、出版社や書店からプラットフォームとライバーの手に移す。日本の出版業界にとって、中国の今は「3〜5年後の自分たちが直面しうる選択」の先行事例として機能する。
「売れる」と「読まれる」は別の問いだ
抖音が1日300万冊を売る事実は、中国人が本を愛している証拠でも、出版産業が健全である証拠でもない。それは、書籍がショート動画プラットフォームの「衝動買い商品」として機能しうることを示しているにすぎない。ライブ配信で買われた本が、どれだけ読み通されているかを示すデータは乏しい。本が届けられることと、本が読まれることの間には依然として大きな距離がある。ライブ配信は果たして「本が売れる仕組み」なのか、それとも「本が積まれる仕組み」なのか——縮む市場のなかで、中国の出版界はまだこの問いに答えを出せていない。
参照・原文リンク
- 上游新聞(テンセント):图书消费升温,抖音电商一季度日均售书300万册(2025年4月21日)
- The World of Chinese: How Livestreams Became China’s Newest Tool for Selling Books(2025年5月27日)


