どんなニュース?
スペインのファランヘ国歌「Cara al Sol(太陽に向かって)」がTikTokで1,600本以上の動画に使われ、フランコ、ムッソリーニ、ヒトラーがミーム・チャント・絵文字として欧州の若者の間に静かに広がっている。イタリアのファクトチェック機関Factaとスペインのファクトチェック機関Maldita.esが実施した国際合同調査が、「ポップファシズム」と名付けられたこの現象の全貌を明らかにした。問題は単なるコンテンツの過激さではない。笑い・音楽・ノスタルジアというパッケージで極右思想を「普通のこと」として若者の日常に埋め込む、巧妙な3段階の侵食構造にある。
元記事・原文引用
元ネタ:Pop fascism: rewriting history in the digital age(EDMO / European Digital Media Observatory・2025年10月17日)
“By using their images… they aim to introduce them to youth circles and normalize the anthem.” — Matilde Eiroa, Carlos III University of Madrid
なぜ今、話題になっているの?
ファシズムの復活は、かつてのような街頭の暴力や政治集会から始まるとは限らない。2020年代の欧州で起きていることは、もっと静かで、もっと巧妙だ。調査が明らかにしたのは、3段階で進む「正常化プロセス」の構造だ。
第1段階:正常化 ファシスト関連の音楽やミームが「面白いコンテンツ」として流通し始める。TikTokの「use-this-sound(このサウンドを使う)」機能を通じて、ファランヘ国歌はレゲトンアレンジやAI生成版として1,600本以上の動画に組み込まれた。24,500本以上の動画がナチス軍事伝統に関連するオーディオを使用していたことも判明している。
第2段階:受容 繰り返し接触することで「そういうものだ」という感覚が生まれる。イタリアの「mattonisti」と呼ばれるグループはTelegramで組織され、「Fascist Saturday」「Führer Friday」として週1回のキャンペーンを展開。トレンドハッシュタグを戦略的に操作してXやTikTokのアルゴリズムに乗せる手法が確認されている。
第3段階:理想化 ムッソリーニやフランコが「失われた強さの象徴」として美化される。Telegramチャンネルではホロコースト否定コンテンツが流通し、「独裁者は実は良いことをした」という歴史修正主義的な主張が、ミームのフォーマットで拡散している。
オックスフォード・ポリティカル・レビューが2026年3月に指摘したように、この現象の本質は「コミュニケーションではなくバイブ(感覚)による共鳴」にある。若者は思想的な同意ではなく、文化的な「ノリ」として極右コンテンツに触れ、気づかぬうちにその価値観を内面化していく。TikTokがこれらの問題ある動画の76%以上を4ヶ月間削除しなかった事実が、プラットフォームのモデレーション機能の限界を示している。
日本人はどう受け止めるべきか
このポップファシズムの構造は、日本とも無関係ではない。日本のネット文化においても、旧日本軍の美化や「昭和の強さ」を懐かしむコンテンツがSNSで散見される。「大日本帝国は悪くなかった」という歴史修正主義的な主張が、ミームやショート動画のフォーマットで流通するケースも増えている。
欧州の調査が示す教訓は明確だ。問題は内容の過激さではなく、「ラッピング」にある。笑えるミーム、カッコいい音楽、ノスタルジックな映像という包み紙が、メディアリテラシーを持つ大人でさえ見逃しがちなバリアを作り出す。子どもや10代の若者がTikTokでこうしたコンテンツを「面白い動画」として消費している時、実際には何を取り込んでいるのかを批判的に考える視点が必要だ。
また、TikTokやXのアルゴリズムが同種のコンテンツを次々に推薦する構造が、侵食を加速させているという点も重要だ。プラットフォームに自浄作用を期待するだけでは不十分であり、欧州ではすでにDSA(デジタルサービス法)に基づく規制が動き始めている。日本でも同様の問題意識が制度設計に反映されるべき段階に来ている。
まとめ
ファシズムは死んでいない。ミームに姿を変え、TikTokのチャントになり、Telegramのハッシュタグキャンペーンとして、欧州の若者の日常に静かに溶け込んでいる。イタリア・スペインの調査が暴いた「正常化→受容→理想化」の3段階構造は、歴史修正主義がどのようにして次世代に伝播するかの解剖図だ。笑えるコンテンツの中に歴史の毒が仕込まれている時代、私たちはコンテンツを「面白いかどうか」だけで消費してはいけない。


