数億回閲覧された「偽造チャット」——王一博になりすます工作の全貌

2026年2月27〜28日、中国の人気俳優・王一博(ワン・イーボー)の私的なチャット履歴だとされるスクリーンショットが、微博(ウェイボー)上で急速に拡散し、関連ワードがトレンド上位を独占した。スクリーンショットの内容には、女性活動家・齊美荷(チー・メイホー)との私的なやり取り、1万4000元(約30万円)のワイン購入や空港のビップラウンジ利用といった豪遊記録、さらに10名以上の著名芸能人への侮辱的な発言が含まれていた。

だが結論から言えば、これらはすべて精巧に捏造されたものだった。所属事務所の岳華娛楽(Yuehua Entertainment)は2月28日午前1時23分に公式声明を発表し、「悪意ある捏造であり、意図的な陥れ工作」と断言。証拠収集を完了し、法的手続きを開始したことを明らかにした。

元記事・原文引用

元ネタWang Yibo Hit by Fake Chat Scandal, Yuehua Entertainment Announces Legal Action(overseasidol.com / 2026年2月28日)

“The person responsible used Wang Yibo’s old phone number, reportedly deactivated and publicly disclosed as obsolete in 2019 to register a Xiaohongshu account and stage the fabricated conversation.”

犯行の手口——「無効番号の再利用」という盲点を突いた偽造技術

ネットユーザーによる独自調査で、犯行の手口が次第に明らかになった。犯人は2019年にすでに無効化され、王一博本人が使用停止を公表していた旧電話番号を入手。その番号を使って小紅書(Xiaohongshu)に新規アカウントを登録し、自作自演で会話を「演じた」。会話相手役となる別アカウントを用意し、あたかも本物のプライベートチャットであるかのように見せかけた。

しかし技術的な矛盾が複数存在した。小紅書のチャット履歴はローカル(端末内)に保存される仕様であり、スクリーンショットが示すような「複数デバイスをまたいだアクセス」は本来不可能だ。会話の日付は2025〜2026年となっているにもかかわらず、使用された電話番号は2019年から無効だったという根本的な矛盾もある。さらに、文体が王一博の「簡潔で抑制的な」普段のコミュニケーションスタイルとは大きくかけ離れているという指摘も相次いだ。

検証より拡散が速かったのが現実だ。これらの矛盾が広く共有されるころには、偽チャットはすでに億単位の閲覧数に達していた。

「無言でリポストしただけでも民事責任を問われる」——中国の法的制裁の構造

この事件が特に注目を集めたのは、その拡散規模が中国の法律上の「深刻な状況」の基準を大幅に超えたためだ。弁護士の張棋懐氏によれば、虚偽情報が「5000回以上閲覧、または500回以上シェア」された場合、刑事罰の対象となる「深刻な状況」に該当する。本件は億単位の閲覧数に達しており、この基準を大幅に超えた。

中国の法律上は、捏造した本人だけでなく拡散に加担したユーザーも責任を問われる可能性がある。治安管理処罰法50条では軽微なケースに5日以下の拘留または500元の罰金が科される。より重大なケースは5〜10日の拘留と罰金。そして刑法246条の名誉毀損罪では深刻なケースに最大3年の懲役刑が適用される。さらに民法1024条の名誉保護規定では、侵害の中止・内容削除・公開謝罪・損害賠償が命じられる。

張棋懐弁護士は「故意に偽造チャットを拡散した場合、または妥当な確認義務を果たさずに他人に害をもたらした場合は民事責任を負う」と公開の場で警告した。「無言でリポストしただけだから責任はない」という一般的な誤解を、弁護士自身が否定したことも大きな反響を呼んだ。

「陳情令」で知られた俳優が照らし出す、SNS誹謗中傷の日中比較

王一博は中国ドラマ「陳情令(チェンジンリン)」への出演で日本にも広く知られており、日本のファンコミュニティも今回の事件に強い関心を示した。ただしこの問題は単なるアイドルスキャンダルではなく、日中両国に共通するSNS上の名誉毀損という構造的課題を照らし出している。

日本では2022年に侮辱罪が改正(刑法231条)され、最大1年の懲役または30万円の罰金が科されるようになった。プロレスラーの木村花さんの死(2020年)をきっかけに法整備が急がれた経緯があるが、SNS上の誹謗中傷対策としては依然として課題が残る。一方、中国では今回の事件が示すように、既存の名誉毀損法・名誉保護法が厳格に適用され、拡散した一般ユーザーまで刑事訴追の対象になりうる。「共有するだけで責任を問われる」という現実は、日本のSNSユーザーにとっても無関係ではない視点を提供する。

「確認より拡散が速い時代」——偽情報はなぜ止まらないのか

今回の事件が提示する問いは明快だ。複数の技術的矛盾がすでに存在していたにもかかわらず、なぜ億単位の拡散が起きたのか。答えはSNSアルゴリズムの設計にある。エンゲージメント(反応・共有)が高いコンテンツほど優先的に表示される仕組みは、真偽の確認より感情的な反応を促す。芸能人スキャンダルは特に強い感情を喚起するため、偽造コンテンツでも瞬時に拡散する。

岳華娛楽が法的措置を取ることで模倣犯への抑止力にはなりうる。しかし根本的な問いは残る——拡散の責任を個人に帰属させることで「情報を疑う文化」は育つのか、あるいは萎縮した沈黙が生まれるだけなのか。王一博事件は、SNS時代の「名誉」と「情報」の在り方について、日本のユーザーに対しても鋭い問いを突きつけている。

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