2,000万ドルと76%成長——数字が証明するS-Beautyの実力

「アメリカで美容ブランドとして成功できれば、世界中どこでも成功できる」——そう語るのは、シンガポール発スキンケアブランド「Allies of Skin」の創業者兼最高経営責任者、ニコラス・トラビス氏だ。2024年、同ブランドは投資会社Meaningful Partnersから2,000万ドル(約30億円)の成長資金を調達し、年間76%という驚異的な成長を達成した。36カ国・Sephoraをはじめとするグローバル小売網での流通を誇り、「マルチ・ペプチド&成長因子アドバンスド・リフティング・セラム」(188ドル)は発売から2週間で5度完売、現在も1万1,000人以上が購入待機リストに並ぶ。

これはひとつのスタートアップの成功譚ではない。この数字の裏には、「K-Beauty(韓国式美容)」「J-Beauty(日本式美容)」と並ぶ第3の潮流——「S-Beauty(シンガポール発美容)」が世界市場に浮上しようとしている構造がある。

元記事・原文引用

元ネタAllies of Skin taps US as key growth engine in next phase of global expansion(CosmeticsDesign-Asia / 2025年2月11日)

“We picked the US… If you can make it as a beauty brand in the US, you can make it anywhere in the world.”

なぜシンガポールが「美容の実証市場」として機能するのか

S-Beautyが今、リアルな競争力を持ち始めた背景には、シンガポールという都市国家の構造的な優位性がある。

第一に、多民族市場という「生きた実験場」だ。シンガポールには中華系、マレー系、インド系、欧米系と多様な肌質・気候耐性の異なる消費者が共存する。Allies of Skinと並ぶシンガポール発ブランド「Romi Beauty」の共同創業者も、アジア肌特有のオリーブアンダートーンと高湿度環境に対応した処方を強みとしており、シンガポールで通用した成分・テクスチャーはアジア全域で通用する、という実証ロジックが成立する。(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト)

第二に、英語による発信力と規制適合力だ。シンガポールは英語が公用語であり、グローバル市場へのブランディングコストが韓国・日本に比べて大幅に低い。さらに、シンガポール保健科学庁の厳格な医薬品グレードの規制基準をクリアした成分は、米国の食品医薬品局・欧州連合基準にも近接しており、輸出時の再認証コストが最小化される。

第三に、科学成分主義の定着だ。ペプチド、成長因子、レチノール、ナイアシンアミドといった「成分で買う」スキンケアへの需要が特にシンガポールで先行している。2026年時点でシンガポールの美容・パーソナルケア市場規模は12億ドルを超え、年8.1%成長という底堅さを示す。

J-Beautyへの問い——「丁寧さ」だけでは勝てない時代が来たのか

Allies of Skinが真正面から挑もうとしているのは、じつは韓国だけではない。SK-IIやTatcha、ハダラボなど、日本ブランドが長年強みを誇ってきた「米国の高感度スキンケア市場」だ。188ドルという価格設定は、SK-IIと同価格帯で戦う宣言でもある。

J-Beautyの強みはシンプルな処方・伝統への信頼・「うるおい」という統一コンセプトにある。一方でS-Beautyが狙うのは、「科学的根拠×マルチタスク×アジア肌実証済み」という異なる価値軸だ。同じ「アジア発」でも、訴求する価値は全く異なる。日本ブランドがS-Beautyから学べることは、成分の透明性とスピード感——日本では時間をかけた成分開発が美徳とされるが、グローバル市場では「今なぜこの成分か」を即座に言語化できるブランドが支持を得やすい現実がある。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、日本の化粧品輸出は2023年に過去最高を更新したが、米国市場でのシェアは韓国の後塵を拝し続けている。S-Beautyが第3の極として台頭すれば、「アジア発=韓国」という単純な図式はさらに崩れていく。

「S-Beauty」という言葉が定着する日、アジアの美の地図は塗り替わるか

K-BeautyがBBクリームで世界を変え、J-Beautyが「引き算の美容」で欧米に刺さった。では次に世界が熱狂するアジアの美の発信地はどこか。S-Beautyという言葉がまだ存在しないからこそ、その椅子は空いたままだ。

Allies of Skinの快進撃は、単一ブランドの成功にとどまらず、「科学×多民族実証×英語発信」というS-Beautyの設計図を世界に見せる最初の実験になりつつある。この実験が成功したとき、シンガポールはビューティの「消費市場」から「発信市場」へと転換する。そのとき日本ブランドは、S-Beautyをすでに競合として認識しているだろうか。

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