【アメリカ】ウルトラマンの権利を円谷プロと30年争ったタイ人監督、遺品300点超が9月23日に競売。成田亨の原画は推定1万〜2万ドル

3行サマリー
- 米ジュリアンズ・オークションが8月27日、タイの映画監督ソンポート・センズの遺品300点超を2026年9月23日午前10時(米太平洋時間)にロサンゼルスで競売にかけると発表しました。
- 最高額はウルトラマンをデザインした成田亨の立体画で、推定価格は1万〜2万ドル。『キングコング対ゴジラ』の日本語台本や、黒澤明・本多猪四郎・円谷英二らが署名したポスターも出ます。
- センズはウルトラマンの日本国外での利用権を円谷プロと約30年争った当事者で、その訴訟は2026年5月14日の東京地裁判決で円谷プロの全面勝訴となりました。
Seriesソムポート・センズ遺品コレクション競売全2本
ウルトラマンの権利を円谷プロと争ったソムポート・センズ氏の遺品コレクションが競売にかけられるまでと、その結果を追う連載。
- 2026/8/29【アメリカ】ウルトラマンの権利を円谷プロと30年争ったタイ人監督、遺品300点超が9月23日に競売。成田亨の原画は推定1万〜2万ドル(この記事)
- 2026/9/25【アメリカ】ウルトラマンの権利を円谷プロと争ったタイ人プロデューサーの遺品321点が全部落札。成田亨のウルトラセブン原画は予想の11倍
ウルトラマンの遺品300点超が、9月23日にロサンゼルスで初めて競売に
米ジュリアンズ・オークションが8月27日、タイの映画監督・製作者ソンポート・センズ(Sompote Sands)の遺品コレクションを競売にかけると発表しました。名称は「Kaiju King: The Sompote Sands Legacy Collection」。現地時間9月23日午前10時、日本時間だと9月24日午前2時に始まります。
センズはチャイヨー・プロダクションの創業者で、円谷プロとの合作『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』(原題 Hanuman and the Seven Ultramen)や『ジャンボーグA&ジャイアント』を手がけた人です。そして同時に、ウルトラマンの日本国外での利用権を円谷プロと約30年争った当事者でもあります。その争いに区切りがついた年に、本人が50年かけて集めた棚の中身が世界に出ることになりました。
ジュリアンズ・オークション発表:出品はタイの私設館「ソンポート・ハウス」から
出典:JULIEN’S AUCTIONS ANNOUNCES “KAIJU KING: THE SOMPOTE SANDS LEGACY COLLECTION”(Julien’s Auctions / PR Newswire / 2026年8月27日)
出典:初期ウルトラマンシリーズを巡る海外利用権、約30年にわたる“訴訟”で円谷プロが勝訴(電ファミニコゲーマー / 2026年5月21日)
Sompote Sands was Southeast Asia’s Steven Spielberg, a pioneer in science fiction filmmaking
発表文でこう述べているのは、ジュリアンズ・オークションでエンターテインメント部門のマネージング・ディレクターを務めるキャサリン・ウィリアムソンさんです。「東南アジアのスピルバーグ」という評し方に、この人の位置づけがよく出ていると感じました。
出品はセンズが50年かけて集め、タイの私設ミュージアム「ソンポート・ハウス」で展示していたものです。撮影で実際に使われたスーツ、怪獣のミニチュア、小道具、台本、ソフビ、原画、現場写真などが含まれます。会場はロサンゼルス近郊ガーデナのジュリアンズ・スタジオ。オンライン、電話、書面でも入札できると案内されています。
最高額は成田亨が署名したウルトラマンの立体画、推定1万〜2万ドル
目玉は、ウルトラマンとウルトラセブンをデザインした美術家・成田亨の直筆作品です。ジュリアンズは、いずれも作家から直接入手したものだとしています。推定価格は同社の発表によるものです。
- 成田亨の立体画『ウルトラマン』(署名入り):1万〜2万ドル
- 成田亨の立体画『ピグモン』(署名と1990年5月の日付、手書きのメモ付き):5,000〜7,000ドル
- 成田亨の後期の立体画『バルタン星人』:5,000〜7,000ドル
- 成田亨が1967年のテレビシリーズ用に作ったウルトラセブンの初期案の像(レジン製):5,000〜7,000ドル
- 『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』で使われたウルトラセブンのマスク(目とビームランプを光らせる配線入り):5,000〜7,000ドル
- ウルトラマンジャックの自動販売機型立像(1974年、バンコクのサラチャルームクルン王立劇場でのプレミア用):2,000〜3,000ドル
- 『ジャンボーグA&ジャイアント』のジャンボーグAスーツ胴体(劇中の演技は立花直樹):2,000〜3,000ドル
- 『キングコング対ゴジラ』(1962年)の日本語台本。センズが制作助手として現場に入ったときのもので、本人の書き込みつき:2,000〜3,000ドル
- 黒澤明・本多猪四郎・円谷英二らが署名した1962/63年の日本映画一覧の手描きポスター(1点物):2,000〜3,000ドル
- ソフビ100ロット(ウルトラマンやゴジラ、ブルマァク・バンダイの1983〜2000年のものなど):各ロット400〜600ドル
並べてみると、ウルトラマンの資料というより「1960年代の東宝と円谷の現場に、タイから来た若者が立っていた記録」に近いことがわかります。センズは『キングコング対ゴジラ』の現場に制作助手として入っていて、そのとき使っていたペトリ7の35mmカメラ(推定300〜500ドル)まで出品されます。
「76年書面」をめぐる30年の争いは、2026年5月に東京地裁でも円谷プロが勝った
ここを飛ばすと、このコレクションの重さが伝わりません。発端は1995年です。チャイヨー・プロダクションが「日本以外で『ウルトラQ』から『ウルトラマンタロウ』までを商用利用する権利を持つ」と主張しました。根拠は1976年付とされる書面、いわゆる「76年書面」です。
円谷プロは一貫してこの書面は偽造だと主張してきました。タイ最高裁(2008年)と米連邦裁判所(2018年)でも、偽造であるとの司法判断が示されています。チャイヨー・プロダクションはすでに活動を止めていますが、76年書面を承継したとされる日本のユーエム株式会社を被告とする訴訟で、2026年5月14日、東京地方裁判所が円谷プロの主張を全面的に認める判決を出しました。円谷プロは5月21日にこれを公表しています。
この争いが海外展開に落とした影は大きなものでした。電ファミニコゲーマーは、映画『レディ・プレイヤー1』で原作小説にあったウルトラマンではなくガンダムが登場することになった逸話に触れています。60年続いたシリーズが、いちばん世界に出られる時期に手足を縛られていたわけです。
センズ本人は2021年に亡くなりました。ジュリアンズは今回の出品を、遺族が管理する遺産からの直接の委託だと説明しています。
先行入札は『キングコング対ゴジラ』の台本に集まり、海外ファンの反応は素直な歓迎ではなかった
公式サイトを日本時間8月29日の朝に確認したところ、出品は321ロットで、事前入札がすでに始まっていました。冒頭24ロットのうち14ロットに入札が入っています。最も高値がついていたのは『キングコング対ゴジラ』の台本で1,250ドル(2件)、次いで黒澤明らの署名ポスターが1,000ドル(2件)。どちらも推定価格は2,000〜3,000ドルなので、この時点ではまだ下限に届いていません。入札の件数がいちばん多かったのはソフビのゴジラ4体セットで、6件の入札で150ドルまで上がっていました。ウルトラマン関連より先に、東宝の現場資料とゴジラのソフビに手が伸びている状態です。
海外のファンコミュニティの受け止めは、素直な歓迎とは少し違いました。登録者4万5,674人のRedditコミュニティ「r/Ultraman」には8月28日に告知スレッドが立ち、翌29日の時点で45票、支持率98%、コメント6件。最も支持を集めたコメントは、「この人物と彼のやったことは好きになれない。それでも、落札した人がコレクションの接写や動画を公開してくれるといい」という趣旨のものでした。権利をめぐる記憶と、現物をこの目で見たいという気持ちが、同じ人の中で同居しています。
日本から買えるのは「モノ」だけで、ウルトラマンの権利は円谷プロのまま
誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。今回売られるのは物理的な資料であって、ウルトラマンの著作権でも商品化権でもありません。成田亨の立体画を日本の誰かが落札しても、キャラクターの権利は円谷プロにあります。権利の話は5月の判決で決着し、モノの話がこれから9月に動く。そういう順番です。
気になるのは、成田亨の一次資料の行き先です。署名入りの立体画が4点まとまって市場に出る機会は、そう何度もありません。円谷プロや国内の美術館が動くのか、それとも海外のコレクターに分かれていくのか。日本からもオンライン・電話・書面で入札できるので、資金と意思さえあれば手は挙げられます。開始は日本時間9月24日午前2時です。
もうひとつ、日本の特撮ファンにとって実利があるのは、ソンポート・ハウスに眠っていた合作作品の現物が、初めて公開の場に出てくること自体です。『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』のマスクや『ジャンボーグA&ジャイアント』のスーツは、日本側に完全な保存記録が残っているとは限りません。落札後にどれだけ記録が公開されるかで、研究に使える資料の量が変わります。r/Ultramanの一番人気コメントが接写を求めていたのは、たぶんそういうことです。
ウルトラマン60周年の年に、初期作品の現物資料が世界に分かれていく
ジュリアンズは今回の競売を、1966年に始まったウルトラマンの60周年に合わせた企画だと位置づけています。60年目に起きるのが、記念展でも復刻でもなく、長く権利を争った相手の遺品の解散というのは、ずいぶん皮肉な巡り合わせです。
それでも、資料が誰かの手に渡って表に出てくるのは、倉庫で眠り続けるよりはいいのだろうと思います。9月24日午前2時。落札額そのものより、成田亨の4点がどこへ行くのかを見ておきたいところです。
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