【世界】津田健次郎さんのAI音声訴訟、東京地裁が声にもパブリシティー権と初判断。188本の動画は削除済みで請求は棄却
3行サマリー
- 東京地裁は2026年9月30日、声優の津田健次郎さんの訴訟で、人の声もパブリシティー権で保護されるとの初めての司法判断を示しました。
- 一方で、問題の動画188本(平均再生回数は約147万回)がすでに削除されているとして、TikTokの運営会社への削除請求は退けました。
- 判決前の9月27日、英語圏には「声は所有できるのか」を問う裁判として配信され、早稲田大の上野達弘教授は声が保護を否定される可能性は低いと見ていました。
Series津田健次郎さんのAI音声訴訟全2本
声優・津田健次郎さんが生成AIによる声の模倣動画をめぐりTikTok運営会社を訴えた裁判の経過を追う連載
- 2026/9/28【世界】津田健次郎さん、AI音声の模倣動画188本の削除を求めTikTok運営会社を提訴。9月30日に判決
- 2026/9/30【世界】津田健次郎さんのAI音声訴訟、東京地裁が声にもパブリシティー権と初判断。188本の動画は削除済みで請求は棄却(この記事)
東京地裁、声にもパブリシティー権と初判断。津田健次郎さんの請求は棄却
生成AIで声を模倣された動画をめぐり、津田健次郎さんがTikTokの運営会社を訴えた裁判で、東京地裁は声も法的な保護の対象になると認めました。そのうえで、動画はすでに削除されているとして、削除を求める請求そのものは退けています。
判決を言い渡したのは高橋彩裁判長です。著名人が名前や肖像から生じる商業的な価値を独占できる「パブリシティー権」について、その保護対象に人の声も含まれると判断しました。声の権利をめぐる司法判断はこれが初めてです。
請求が棄却されたため形の上では津田さん側の敗訴ですが、提訴の段階から争点とされてきた「声は守られるのか」という問いには、裁判所が「守られる」と答えた形です。結論だけを見ると敗訴ですが、判決の中身は声優側の主張に沿う部分が大きい、と受け止めました。9月30日15時時点で、津田さん側のコメントや控訴の意向は報じられていません。
共同通信と時事通信、判決は「声は肖像と同様に人格の象徴」
出典:声も「人格の象徴」初判断 AI声模倣動画訴訟、東京地裁(東京新聞・共同通信 / 2026年9月30日)
出典:声にも「パブリシティー権」認める 生成AIで声模倣、人気声優訴え―東京地裁(時事ドットコム / 2026年9月30日)
人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴だ
共同通信によると、判決はこのように述べて、声もパブリシティー権で保護されるとの考えを示しました。日本経済新聞も「声にもパブリシティー権、初の司法判断」と報じています。
時事通信によると、運営会社側は動画がすでに削除されたことから「訴えの利益がない」と主張していました。判決が請求を退けたのは、この削除済みという事情を踏まえたものです。
188本・平均147万回再生、訴えの対象だった匿名アカウント
問題になったのは、2024年7月から2025年9月にかけて1つのアカウントが投稿した188本の動画です。都市伝説などを扱う内容に、津田さんの声質に似せたナレーションが付けられていました。
時事通信によると、このアカウントのフォロワーは約21万人、動画の平均再生回数は約147万回でした。津田さん側は、投稿者が再生数に応じて月50万〜75万円の報酬を得ていたと主張しています。訴えの中身は、生成AIで「低く渋みのある声」が意図的に作られたとするもので、パブリシティー権の侵害と不正競争防止法違反を柱にしていました。
これに対し運営会社側は、投稿者は友人の声をAIに学習させたのであって、津田さんの声ではないと反論していました。提訴から判決期日までの経緯は、前回の記事「津田健次郎さん、AI音声の模倣動画188本の削除を求めTikTok運営会社を提訴。9月30日に判決」で整理しています。
海外報道は判決前、「声は所有できるのか」を問う裁判として伝えていた
英語圏のメディアがこの裁判で注目していたのは、動画の削除よりも「声の所有権」という論点でした。判決3日前の9月27日、東京発の英語記事がJapan Todayに掲載され、マレーシアのMalay Mailは「Can you own your voice?(声は所有できるのか)」という見出しでこの裁判を伝えました。
海外で関心が高かった理由は2つあります。1つ目は、津田さんが『呪術廻戦』『遊☆戯☆王』など海外でも配信されている作品の声優で、英語圏のアニメファンにも名前が知られていることです。2つ目は、声の模倣がすでに国際的な問題になっていることです。Japan Todayの記事は、2024年にOpenAIの合成音声が女優スカーレット・ヨハンソンさんの声に似ていると問題になった件にも触れていました。
日本側では、法務省の有識者検討会が2026年8月に、声もパブリシティー権の保護対象になりうるとする報告書を公表したばかりでした。行政の指針が出た翌月に、裁判所が同じ方向の判断を示した形です。
英語記事に載った識者の見立て、早稲田大・上野教授の予想どおりの判断に
判決前の英語記事では、日本の識者や業界関係者の発言が紹介されていました。今回の判決は、その中の識者の見立てと一致しています。
- 早稲田大学で知的財産法を研究する上野達弘教授は、津田さんの声がパブリシティー権を真っ向から否定される可能性は「very unlikely(非常に低い)」と述べ、この裁判は国際的に大きな関心を集めるとの見方を示していました。
- 日本俳優連合の佐々木裕子氏は、声は時間とお金をかけて磨き上げるものだとして、津田さんを全面的に支持するとコメントしていました。
- 声優の島田敏さんは「Our industry can be crushed(業界がつぶされかねない)」と、AIによる声の無断使用への危機感を示していました。
判決後の海外メディアの続報は、9月30日15時時点ではまだ確認できていません。判決前の英語記事が「声を所有できるか」を主題に据えていた以上、海外の関心は棄却という結論よりも、声が保護対象と認められた点のほうに向かうはずです。
声は守られると示した一方、削除済みなら請求は通らない。残る課題は投稿と削除の繰り返し
今回の判決で、日本の声優の声は、名前や顔と同じように商業的な価値を守られる対象だと裁判所が認めました。一審の判断ではありますが、生成AIで声を似せた動画に対して、声優側が法的な根拠を持って削除や対応を求められる土台ができたことになります。
その一方で、削除を求める訴訟は、動画が消えた時点で請求が成り立たなくなることもはっきりしました。模倣動画は投稿と削除を繰り返せるため、権利が認められても、実際に被害を止める手段をどう用意するかは別の課題として残ります。個人的には、この「認められたのに止められない」ずれこそ、制度づくりで最初に埋めるべき穴だと感じます。控訴するかどうかを含めた津田さん側の次の動きと、判決を受けた海外メディアの報じ方が次の焦点です。
いま読まれている記事
【アメリカ】無職転生III 第13話「日記」で英語圏の評価が割れた。レビューは10点中2.5点、ファンは「年間ベスト」
【アメリカ】任天堂『ファイアーエムブレム 万紫千紅』海外870人投票で最多は24時間プレイ。クリア時間の集計サイトはデータ不足
【アメリカ】日本ファルコム『空の軌跡 the 2nd』、Steam同時接続1万5154人。前作the 1stは2つのアプリに分かれていた

