「AI誘致合戦」でインドが打ち出した決定打——2047年まで法人税ゼロ

2026年2月1日、インド政府は世界のクラウドプロバイダーに向けて前例のない宣言を行った。インドのデータセンターから国外向けに提供するAIワークロードに対して、2047年まで法人税をゼロにするというものだ。21年間の完全免税。これは単なる税制優遇ではなく、インドが「AIを受け取る国」から「AIを輸出する国」へと設計を転換したことを意味する。

この発表を受けて2月16〜20日に開かれたインドAIインパクトサミット2026(ニューデリー、Bharat Mandapam)では、25万人以上が来場し、20カ国以上の首脳が参集した。そこで集まった投資誓約の規模が、インドの本気度を物語っている。Adaniグループが単独で1,000億ドル(約15兆円)のハイパースケールデータセンター建設を表明。MicrosoftとAmazonが合計で約500億ドル規模の投資計画を示し、Googleも150億ドルを5年間で注入すると発表した。総額は2,000億ドル(約30兆円)に達する。

元記事・原文引用

元ネタIndia offers zero taxes through 2047 to lure global AI workloads(TechCrunch / 2026年2月1日)

“India is offering zero corporate taxes through 2047 for overseas cloud providers to host AI workloads out of the country’s data centers.”

5.8万基のGPUと国産モデル——インドが整備する「AI主権」の三層構造

インドのAI国策は、税制優遇だけで語れない。インドAIミッション(IndiaAI Mission)のもとで、インド政府は公共クラウド上に5.8万基超のGPUを整備し、スタートアップや研究者に時間あたり約65ルピー(約110円)という補助価格で提供している。先進国の商用GPUクラウドと比べると10分の1以下の水準だ。

このGPUインフラの上に育ちつつあるのが、インド語圏向けの大規模言語モデルである。KrutrimとSarvam AIという2社のインド産大規模言語モデルは、2026年時点で政府・公共部門・中小企業向けに急速に普及し始めており、英語依存の汎用モデルでは届かない22億語話者の市場をターゲットにしている。さらに、グジャラート国際金融テックシティ(GIFT City)では外国企業への20年間の法人税免除という特区も設けられており、データセンター誘致から独自モデルの育成まで、インフラ→モデル→アプリという三層を国策で一気通貫に整備する設計が見えてくる。

背景にあった矛盾は単純だ。インドは14億人の人口、世界最大のITエンジニア輩出国、膨大なデジタルデータという「AI時代のリソース」をすべて持ちながら、計算資源(コンピュート)だけが圧倒的に不足していた。IndiaAI Missionはその欠落を国策で埋め、同時に「計算資源を外資に依存し続ける」という構造そのものを変えようとしている。

日本のIT産業が突きつけられる問い——受注国のままでいいのか

日本企業にとって、このインドの変貌は決して対岸の火事ではない。SoftBank創業者の孫正義氏は2025〜2026年にかけてAIインフラへの大規模投資を表明しており、インドへの関与も深い。NTTデータとインフォシスはすでに長期パートナーシップを結び、富士通もインドの開発拠点を拡大している。ところが、こうした日本企業の関与の多くは「インド人エンジニアを安く使う」という旧来の受発注モデルの延長にある。

インドが5.8万基のGPUと独自の大規模言語モデルを持ち始めたとき、そのモデルは崩れる。「日本の仕様を受けてインドが実装する」から「インドが設計したAI基盤を日本企業が購入・活用する」という逆転が、ゆっくりと、しかし確実に起きつつある。経済産業省のAI戦略2025は国産基盤モデルへの投資を掲げているが、インドのスケールと速度の前では予算規模の差は明白だ。

「誘致する側」になったインドは、次の20年をどう設計するか

2047年という年号は偶然ではない。インドの独立100周年にあたる年で、政府は「ビカシット・バーラト(Viksit Bharat)=先進インド」を国家目標として掲げている。AIはその中核に位置づけられており、今回の税制優遇はその長期戦略の一手だ。

問題は日本がどの位置に立つかである。AIインフラを「持つ国」と「使う国」の間には、今後20年で埋めがたい格差が生まれる可能性がある。インドが「第3のAI超大国」への設計を完成させつつある今、日本のIT企業・政府機関・研究機関はインドを下請け先として見るのをやめ、共同開発パートナーとして向き合うリデザインを迫られている。「発注国のまま」という選択肢は、選択肢であり続けるだろうか。

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