どんなニュース?

2025年、ベトナムの美容・パーソナルケア市場において、EC(電子商取引)経由の売上が3大プラットフォーム(TikTok Shop・Shopee・Lazada)合計で約740億円相当(VND74.4兆)に達し、前年比30%近い成長を記録した。そして2025年第4四半期、TikTok ShopがShopeeを初めて逆転し、市場シェア50%(約308億円)を獲得した。

つまり——「安売りで集客する時代」から「動画で欲しいという感情をつくる時代」へ、ベトナム美容EC市場の競争軸そのものが変わったのだ。この構造変化は、日本のビューティブランドが東南アジアで戦うための戦略にも直接関わる。

元記事・原文引用

元ネタVietnamese e-commerce beauty spending tops $3 billion in 2025(Vietnam Investment Review / 2026年3月26日)

“The market is entering a new phase of competition, driven more by the ability to create demand and shape consumer behaviour, rather than relying solely on price promotions.”

なぜ今、話題になっているの?

ベトナムのEC美容市場でTikTok ShopがShopeを抜いた背景には、「コンテンツコマース」という販売モデルの本質的な優位性がある。

Shopeが強みとしてきたのは「価格訴求」だ。フラッシュセールやバウチャーで消費者の購買意欲を刺激し、「安いから買う」という行動を促す。これはEC初期の成長モデルとして機能したが、競合が増えると値引き合戦に陥り、ブランドマージンを削るジレンマを生んだ。

一方、TikTok Shopは「ショッパーテインメント(Shoppertainment)」を軸に据えた。ショート動画やライブコマースで「この商品を使ったら自分もこうなれる」という感情体験を先につくり、その流れのままで購入ボタンを押させる。「探して買う」ではなく「見ているうちに買いたくなる」という購買導線だ。この違いは、平均注文単価にも現れている——売上全体の収益成長率(30%)が販売数量の成長率(9%)を大きく上回っており、消費者が「安いから」ではなく「欲しいから」買っている構造が浮かび上がる。

さらに注目すべきは「公式ブランドストアが収益の64%を占める」という事実だ。かつてEC美容市場は個人出品者・転売業者が主役だったが、今やブランド自身がコンテンツを武器に消費者へ直接リーチするD2C(Direct to Consumer)の舞台へと変わった。アクティブショップ数が前年比13%減でも市場規模は30%拡大したのは、「売り手の数」より「誰が売るか(ブランド力)と「どう売るか(コンテンツ力)」が決定的になったことを意味する。

日本ブランドにとっての意味は?

ベトナムには資生堂・花王・コーセー・ロート製薬など多くの日本コスメブランドが進出している。これまで「ジャパンクオリティ」「信頼の成分」というブランド価値をオフライン店舗や代理店網で訴求するモデルが主流だったが、今回の構造変化はそのアプローチを問い直す。

TikTok Shopで売れているブランドの共通点は、「商品の説明」ではなく「使った後の自分の変化」を動画で見せる力だ。ベトナムのZ世代ユーザーはライブ配信中に商品の成分・使用感・実際の効果を視聴しながら即決購入するため、スキンケアの「科学的根拠」も「エンタメとして伝わる」形に変換できるブランドが勝つ。

日本ブランドにとってのリスクは、丁寧な商品説明が「退屈なコンテンツ」に見えてしまうことだ。逆に言えば、ロート製薬のように「肌荒れの仕組みを楽しく解説する」コンテンツ手法をTikTokフォーマットで展開できれば、ベトナム市場での差別化余地は大きい。また、TikTok Shopは日本国内でも急速に普及しており、ベトナムで勝ったコンテンツ戦略は日本のEC市場攻略にもそのまま応用できる。

まとめ

ベトナム美容EC市場でTikTok ShopがShopeを逆転した出来事は、単なる「プラットフォームの盛衰」ではない。「価格で選ばれる時代」から「感情で選ばれる時代」への市場構造の転換であり、この変化はASEAN全域、そして日本のEC市場にも波及していく。日本のビューティブランドが東南アジアで生き残るためには、「良いものを作る」だけでなく「欲しいという感情を先につくる」コンテンツ力を持つことが、今まで以上に問われる時代になった。