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【フランス】パリ近郊のドラゴンボールパーク、サウジが約1兆円で署名。開業日も東映アニメーションの名前も発表文になかった

編集部
吉沢まことVelleity Note 編集部 ・ Overseas Reception, Read Straight
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【フランス】パリ近郊のドラゴンボールパーク、サウジが約1兆円で署名。開業日も東映アニメーションの名前も発表文になかった

3行サマリー

  • フランス政府とサウジアラビアの政府系ファンド傘下キディヤは8月24日、パリ近郊セルジー=ポントワーズに3つのテーマパークを作る基本合意文書に署名しました。投資額は60億ユーロ、直接雇用は2万2000人とされています
  • 3つのうち1つはマンガをテーマにしたパークで、エリゼ宮はドラゴンボールをテーマの1つとして挙げました。残り2つのテーマ、開業日、60億ユーロの内訳、運営者はいずれも発表されていません
  • ドラゴンボールの権利元である東映アニメーションが公表しているパークの許諾は、いまもサウジアラビア国内の1件だけです。8月25日朝の時点で、フランスの案件に関する同社の発表は確認できません

エリゼ宮が8月24日に署名を発表。パリ北西30キロに3つのパーク、投資60億ユーロと直接雇用2万2000人

2026年8月24日の夕方、パリで基本合意文書(protocole d’accord)が交わされました。フランス側はロラン・レスキュール経済財務相、サウジアラビア側はキディヤ・インベストメント・カンパニーの最高責任者アブドラ・アルダウード氏です。サウジアラビアの政府系ファンドの傘下にあるこの会社が、パリから北西へ30キロほどのセルジー=ポントワーズ都市圏に、3つのテーマパークを作ります。

エリゼ宮が示した数字は、60億ユーロ(1ユーロ=170円換算で約1兆円)の投資と、2万2000人の直接雇用です。マクロン大統領はこれに加えて、間接雇用が最大8万人になるとも述べました。ホスピタリティONによれば、ユーロディズニーの開業時の間接雇用は2万人でした。

マクロン大統領はXに「セルジー=ポントワーズに3つのテーマパークができる。投資は60億ユーロ。2万2000人の雇用が生まれる。ディズニーランド・パリ以来、見たことのない規模だ。新しい世界的な目的地になる」と書いています。署名の場では「世界を驚かせるのは、まだ終わっていない」とも述べました。

そして3つのうち1つが、マンガの世界をテーマにしたパークです。エリゼ宮はドラゴンボールをテーマの1つとして挙げました。残り2つのテーマは、キディヤがあとから決めることになっています。

ザ・ナショナル「マクロン大統領府はドラゴンボールがテーマの1つになると述べたが、時期については何も示さなかった」

出典Saudi Arabia to invest $7bn in three manga-themed amusement parks near Paris(The National / 2026年8月24日)

出典6 milliards, 3 parcs, «du jamais vu depuis Disneyland Paris» : l’Élysée officialise le méga-projet saoudien de Cergy(Hospitality ON / 2026年8月24日)

The Japanese manga series Dragon Ball, which became a global phenomenon in the 1990s, will be one of the themes of the new parks, Mr Macron’s office said, without giving details on a time frame.

訳:1990年代に世界的な現象となった日本のマンガ『ドラゴンボール』が、新しいパークのテーマの1つになる。マクロン大統領府はそう述べたが、時期については何も明らかにしなかった。

話の始まりも、あわせて公表されました。2024年12月、マクロン大統領がリヤドを訪れたときのことです。皇太子の公邸での会話で、2人はマンガ、とりわけ『ドラゴンボールZ』が好きだという共通点に気づきました。ホスピタリティONによれば、そのあと皇太子から「このテーマのパークにフランスで投資したい」という趣旨の書簡が届いたそうです。実務の協議が始まったのは2025年3月で、キディヤは昨年パリに事務所を開いています。

キディヤにとって、これはサウジアラビア国外で初めての案件です。7月末から流れていた投資額は10億ユーロでしたから、公表された数字はその6倍でした。

発表されていないものが多い。開業日、運営者、60億ユーロの内訳、そして権利元の許諾

数字と場所は出ましたが、そこから先はほとんど白紙です。ホスピタリティONは、資本の組み方も、将来パークを運営する会社も、60億ユーロを3つのパークとホテルとインフラにどう割り振るのかも、そして工事の日程も、いずれも分かっていないと書いています。3つのうち2つのテーマも未定です。

日本から見ていていちばん引っかかるのは、ここです。ドラゴンボールの権利元は東映アニメーションで、同社が公にライセンス契約を発表したドラゴンボールパークは、2024年3月にキディヤと組んでリヤド近郊に作ると言った1件だけです。キディヤ自身が、その計画を「世界唯一のドラゴンボールパーク」と説明してきました。

8月24日に署名の場にいたのは、フランスの経済財務相とキディヤの最高責任者です。権利元の名前は、そこにありません。8月21日の記事で「発表があったときに見るべきは金額でも着工予定でもなく、東映アニメーションの名前がその発表文に載っているかどうか」と書きました。答えは、載っていない、でした。本稿を書いている8月25日朝の時点で、東映アニメーションからもキディヤからも、フランスの案件についての発表は確認できていません。

もちろん、これは「許諾がない」という意味ではありません。国どうしの投資の枠組みを先に固めて、権利の話はそのあとで詰める、という順番はありえます。ただ、現時点で公表されている文書だけを並べると、ドラゴンボールという名前はフランス側からしか出ていない、という状態が続いています。

39年前のミラポリスもサウジ資本で建ち、5シーズンで閉園した。同じ土地に同じ国の資金が戻る

建設予定地は、ヴァル=ドワーズ県クルディマンシュにある遊園地ミラポリスの跡地です。この土地の来歴が、今回の話とよく似ています。

ミラポリスは1984年からサウジアラビアの実業家ガイス・ファラオン氏の出資を受けて計画され、1987年5月20日に開園しました。フランス初の大型テーマパークで、フランスの文学や伝説を見せる場所として作られました。そして1991年10月20日、5シーズンで閉園します。集客が伸びず、経営が行き詰まりました。翌年、マルヌ=ラ=ヴァレにディズニーが開きます。

39年たって、同じ土地に、また同じ国の資金が戻ってきたことになります。ザ・ナショナルは、サウジ側がこの場所を選んだ理由として、パリに近いことと、ディズニーランド・パリに近いことを挙げています。エリゼ宮は、旅行者が1回の滞在で複数のパークをはしごする、オーランドのような形を狙っていると説明しました。

地理の対称性も、フランスの報道では話題になっています。予定地はRER A線の西の終点セルジー=ル=オーから1キロも離れていません。ディズニーは同じ路線の東の終点に建ちました。ただしセルジー方面の枝分かれした区間は輸送力の弱さがたびたび指摘されていて、ミラポリスがつまずいた理由の一つも交通の便でした。

着工の前に、フランスの法律が約1年の公開討論を求める。4億6000万ユーロを超える案件の決まりごと

「決まった」と書かれていますが、明日から工事が始まるわけではありません。フランスには、4億6000万ユーロを超える観光・レジャー施設の計画について、国家公開討論委員会への付託を義務づける制度があります。60億ユーロは、この基準を1桁上回ります。

委員会は2か月以内に、自ら4か月の公開討論を開くか、事業者に事前協議をさせて第三者が監督するか、どちらかを選びます。そして、それが終わるまで最初の許可申請は出せません。ホスピタリティONは「最初の建築許可の前に、およそ1年の住民参加。そのあとに環境評価、それから工事」と整理しています。ここで言う環境評価は、2024年にこの土地の別の再開発計画がつまずいた、まさにその手続きです。

比較対象も同じ記事に出てきます。ユニバーサルは英国の計画を2023年末に公表しましたが、開業は2031年です。そして同じヴァル=ドワーズ県で進んでいた大型商業施設ユーロパシティは、同じ公開討論を経たうえで2019年に国が断念しました。

土地の問題も残ります。旧ミラポリスの敷地は約30ヘクタールで、所有者は2019年からUXCOグループです。2017年からは移動生活者のコミュニティ約400人が暮らし、そのうち20人ほどの子どもが近隣の学校に通っています。今回構想されているリゾート全体は約200ヘクタール、旧ミラポリスの約7倍にあたるため、西側と南側の農地を買い足す必要が出てきます。ヴァル=ドワーズ選出のオーレリアン・タシェ議員は、住民との「本当の協議」を求めました。

日本の権利元がいつ表に出るかで、この話の性格が変わる

日本のマンガとアニメが海外でどう扱われるかを見てきた立場から言うと、今回の発表で確定したのは「サウジアラビアの資金がパリ近郊に入る」ことであって、「ドラゴンボールパークができる」ことではありません。この2つは重なりますが、同じではありません。

東映アニメーションにとって、リヤドの案件は最大規模のIP輸出でした。「世界唯一」という言葉は、その独占性を担保するために置かれていたはずです。フランスに2つ目ができるなら、別の契約を結ぶか、いまの契約の対象地域を広げるかが要ります。どちらにしても、権利元の判断が先にあります。

ホスピタリティONは、残り2つのパークのテーマを推し量る材料として、サウジの政府系ファンドが持つ資産の幅の広さに触れています。同ファンドは2022年以降、日本のゲーム会社や映像会社の株式を相次いで取得してきました(報道ベース)。ドラゴンボールに限らず、日本のIPが候補に挙がる余地はあります。ただし、こちらも公表された契約は1件もありません。

フランスの地元でどう受け止められているかは、8月21日の記事で住民や地域圏議員の声をまとめました。跡地に暮らす人たちの立場は、8月24日の署名で変わっていません。

決まったのは金額と場所だけ。次に見るべきは東映アニメーションが何を出すか

整理します。8月24日に確定したのは、60億ユーロという投資の意向、セルジー=ポントワーズという場所、3つという数、そして2万2000人という雇用の見込みです。開業日はありません。運営者もありません。ドラゴンボールについては、フランス大統領府が「テーマの1つ」と言っただけです。

次の分岐点は2つあります。1つは、東映アニメーションがフランスの案件について何かを発表するかどうか。もう1つは、国家公開討論委員会がこの計画をどう扱うかです。前者が出れば、これはドラゴンボールパークの話になります。出ないうちは、パリ近郊にサウジアラビアの資金でテーマパークが3つできる、という投資の話のままです。

ミラポリスの跡地は、35年のあいだ何度も計画が浮かんでは消えてきた土地です。今回は数字の桁が違いますが、書類の順番はまだ最初の1枚目にあります。

編集部
吉沢まこと
Velleity Note 編集部 ・ Overseas Reception, Read Straight

日本のアニメ・ゲーム・音楽・カルチャーが海外でどう受け止められたかを、賛否そのままに、現地語の一次ソースで確かめてから日本語にしています。褒めるだけの国内報道とは違う角度で。続報があれば更新日を明記して追記します。