【サウジアラビア】ロイヤリティの90%が海外から。Spotifyが明かしたサウジ音楽の「輸出構造」
最終更新

ロイヤリティの9割超が海外から。Spotifyが数字で証明したサウジ音楽の「輸出産業化」
Spotifyがサウジアラビアで初めて公開した「Loud & Clear」レポートが、衝撃的な数字を示した。サウジアラビアのアーティストが2024年にSpotifyから得たロイヤリティは1,300万サウジリヤル(約5億2,000万円)で、前年比76%増を記録。2022年比では2倍以上に跳ね上がった。さらに注目すべきは収益構造だ——そのロイヤリティの90%以上が、サウジアラビア国外のリスナーからもたらされている。アメリカ、ブラジル、インド、ドイツ、イギリス、フランスといった市場でサウジ音楽が「発見」されている事実は、この産業が内需依存ではなく輸出型として成立していることを意味する。
元記事・原文引用
元ネタ:Spotify launches first ‘Loud & Clear’ report in Saudi Arabia, spotlighting royalties and artist growth(Arab News / 2025年10月)
“Saudi artists generated more than SR13 million ($3.5 million) in royalties on Spotify in 2024 — a 76 per cent increase from the previous year and more than double the total in 2022. More than 90 per cent of their royalties came from outside the Kingdom.”
「禁止→投資→輸出」。サウジ音楽産業を生んだ3段階の政策転換
この急成長は、偶然の産物ではない。2016年以前のサウジアラビアでは、公共の場での音楽演奏は厳しく制限されており、コンサートはほぼ存在しなかった。転換点はムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が主導した「サウジ・ビジョン2030」だ。石油依存経済からの脱却を目指したこの国家戦略はエンターテインメントを非石油収入の柱と位置づけ、2016年のエンタメ解禁を皮切りに、国内外のアーティストを招いた大型コンサートが次々と解禁された。音楽委員会の設立後は、アーティスト育成プログラム「Music Compass」を通じて、ビジネス管理スキルや国際音楽会議への参加機会を国内クリエイターに提供している。この構造的投資の結果として、年間100,000リヤル(約400万円)以上を稼ぐサウジアーティストの数が2023年比で2倍に増加。Soundstorm(2024年に45万人以上が訪れた世界最大規模の電子音楽フェスティバル)のような巨大ライブ市場も並行して育ち、スウィーミングとライブの両輪で「音楽産業」が形成されつつある。
K-pop・J-popと何が違うか。「輸出音楽」の3つのモデル比較
サウジアラビアの音楽輸出は、既存の「音楽大国」とは異なる経路をたどっている。韓国は韓国コンテンツ振興院を通じたアイドル育成・輸出モデルで成功を収めた。日本のシティポップはプラットフォームを通じた「自然発生的な海外発見」がきっかけだった。サウジアラビアはこの2つのハイブリッドに近い——国家主導の投資インフラ(韓国型)を持ちながら、ハリージ音楽(湾岸伝統歌謡)という固有ジャンルがSpotifyアルゴリズムを経由して欧米・中南米・南アジアに自然拡散している(日本型)。特筆すべきはAyed(アイード)やMishaal Tamerといったアーティストの躍進だ。サウジ・エクアドル系のMishaal Tamerは英語楽曲でペルーやメキシコのチャートに食い込んでいる。ハリージ音楽の象徴であるAyedはエジプトやクウェートでも一世代の声として認識されている。90%超の海外収益という数字は、「サウジ音楽は国内で支持されていない」という意味ではなく、Spotify上でのサウジ音楽への国内リスナーも2020年比で195%増と急増しているうえに、海外の伸びがそれをさらに上回っていることを示している。
石油の次の「輸出品」は旋律か。日本のコンテンツ戦略への問いかけ
サウジアラビアの音楽産業の急成長は、「文化輸出は民間の自然発生に任せるべきか、国策で設計するべきか」という問いを改めて突きつける。日本では、シティポップやアニメ音楽がSpotifyやYouTubeを通じて海外で発見される「偶然型」の成功が続いてきた。しかし、サウジアラビアが示すのは「禁止から10年で輸出産業を設計できる」という事実だ。ビジョン2030のエンタメ投資総額は、2024〜2025年だけで500億サウジリヤル(約2兆円)超に及ぶと報告されており、そのなかに音楽委員会・育成プログラム・フェスティバル誘致が体系的に組み込まれている。Spotifyの「Loud & Clear」レポートが示した1,300万リヤルという数字は、産業規模としてはまだ小さい。しかし成長速度と海外収益比率という2つの指標が示すのは、「音楽が輸出できる産業として離陸した」という構造変化だ。石油王国が次の「輸出品」に音楽を選んだとき、日本のコンテンツ産業はどんな競合相手を前にしているのか——その問いに向き合う時期が来ている。
参照・原文リンク
- Arab News:Spotifyがサウジアラビア向け「Loud & Clear」レポートを初公開(2025年10月)
- The National:サウジアーティストのSpotifyロイヤリティが350万ドルに——グローバルリスナーが急増(2025年10月)
- Asharq Al-Awsat:サウジ音楽委員会が「Music Compass」プログラムを発表
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