【アメリカ】浦沢直樹『BILLY BAT』がハーヴェイ賞の最優秀マンガに。英語版が出るまで18年、発売4か月で受賞

3行サマリー
- 浦沢直樹・長崎尚志『BILLY BAT』が、2026年ハーヴェイ賞の最優秀マンガに選ばれた(現地時間10月9日、ニューヨーク・コミコンで発表)
- 候補は6作で、つげ義春・高野文子・山下和美・りんたろうの作品を抑えての受賞。英語版第1巻の発売(6月)から約4か月だった
- 2008年の連載開始から英語版が出るまで18年かかった作品で、8月のアメリカン・マンガ・アワードに続き、米国で2つ目の賞になった
『BILLY BAT』、ハーヴェイ賞2026の最優秀マンガを受賞
浦沢直樹さんと長崎尚志さんの『BILLY BAT』が、米国の漫画賞「ハーヴェイ賞」の2026年最優秀マンガ(Best Manga)部門を受賞しました。発表は現地時間10月9日、ニューヨーク・コミコンの会場で行われました(日本時間10月10日)。
ハーヴェイ賞は、米国の漫画家・編集者ハーヴェイ・カーツマンの名を冠した賞です。『BILLY BAT』の英語版はAbrams ComicArtsのマンガレーベル「Kana」から出ていて、翻訳はクリスティ・イワシロさんです。
講談社「モーニング」での連載は2008年から2016年まで、単行本は全20巻です。日本では完結から10年がたつ作品が、いま米国では新刊として評価されているわけです。
Anime News NetworkとThe Beatが受賞を報道、同部門の候補は6作
出典:Billy Bat Manga Wins Harvey Award(Anime News Network / 2026年10月9日・現地時間)
出典:NYCC ’26: Presenting the 2026 Harvey Awards winners(The Beat / 2026年10月9日・現地時間)
Anime News Networkは、ハーヴェイ賞の公式Xアカウントの発表をもとに報じています。同じ部門の候補は次の6作でした。
- 『BILLY BAT』浦沢直樹・長崎尚志(受賞)
- 『He Rolled Me Up Like a Grilled Squid』つげ義春
- 『ランド』山下和美
- 『ミス・ルキ』高野文子
- 『My Gorilla Family』飯島市朗
- 『My Life in 24 Frames per Second』りんたろう
並んだのは、ベテラン作家の旧作や回想録ばかり。連載中の人気作が受賞してきた近年とは、候補の顔ぶれが違いました。
英語版が18年出なかった理由は、バットマンとディズニーに似た題材
『BILLY BAT』は名作として知られながら、英語版が長く出ませんでした。理由として挙がっているのは、作品の題材そのものです。
物語は1949年、日系アメリカ人の漫画家が、コウモリの探偵キャラクター「ビリーバット」で成功をつかみかける場面から始まります。盗作をめぐる話で、作中のコウモリのマークはバットマンのマークに、登場する漫画家の一人はウォルト・ディズニーに重なります。
米国の映画メディア/Filmは、浦沢さんが2019年のインタビューで語った懸念を引用しています(/Film、2026年6月3日)。
major animation or film studios could take offense, or maybe draw some non-existent similarities between my work and their work
大手のアニメ・映画スタジオが気を悪くするか、ありもしない類似点を見つけるかもしれない、という趣旨です。
結局、英語版を引き受けたのはAbrams ComicArtsのKanaレーベルでした。第1巻は2026年6月に発売され、年4巻のペースで全20巻を出す計画です。8月20日には、アニメNYCで開かれたアメリカン・マンガ・アワードで最優秀新作マンガを受賞しました(ICv2)。ハーヴェイ賞は、米国で2つ目の受賞です。
海外Redditの最多票は「大手出版社がどこも手を出さなかった浦沢作品」
英語版の発売時、Redditのアメコミ板r/comicbooksでは、/Filmの記事を紹介したスレッドに267票・41件のコメントが付きました(高評価率87%)。タイトルは「ディズニーとDCが見せたくない伝説のマンガ、ついに米国へ」です。
見られるコメントで一番票を集めたのは、次の書き込みでした(40票)。
大手の出版社がどこも手を出さなかった浦沢作品というのが信じられない。
「浦沢は自分にとってマンガの王様」(41票)という声もありました。別のコメント(17票)は、英語版が遅れた理由をこう推測しています。盗作が題材で、マークがバットマンに似ていて、ディズニーそっくりの人物まで出てくるからだ、というものです。一方で、「タイトルは釣りすぎ」と、1巻を読んだうえで指摘する書き込みもありました。
マンガ板r/mangaでは、英語版の発売報告が63票(高評価率93%)を集めています。ただし日本時間10月10日夕方の時点で、ハーヴェイ賞の受賞そのものを扱うスレッドは、r/mangaにもr/comicbooksにも立っていませんでした。英語圏で受賞が知られていくのは、これからになりそうです。
チェンソーマン、とんがり帽子に続く日本マンガの受賞。アニメ勢は映像部門で敗退
Anime News Networkによると、2018年以降のマンガ部門の受賞作は次のとおりです。
- 2018年『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』永田カビ
- 2019年『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平
- 2020年『とんがり帽子のアトリエ』白浜鴎
- 2021〜2023年『チェンソーマン』藤本タツキ(3年連続)
- 2024年『ダンジョン飯』九井諒子
- 2025年『とんがり帽子のアトリエ』白浜鴎(2度目)
『とんがり帽子のアトリエ』は、アニメ版も米国の批評家団体の賞を受けています(関連記事)。
2026年はアニメ作品も映像化部門に名を連ねました。『チェンソーマン レゼ篇』『鬼滅の刃 無限城編』『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』と実写『ONE PIECE』シーズン2です。ただし受賞はマーベル原作の実写ドラマ『スパイダー・ノワール』で、日本勢は届きませんでした(The Beat)。
完結10年の『BILLY BAT』、米国では「新作」として読まれ始めた
今回の受賞を見て印象に残ったのは、日本で完結した作品でも、英語版が出た時点で米国では新作として扱われる、という点でした。『BILLY BAT』は、日本では連載終了から10年がたっています。それでも米国では、発売から4か月で2つの賞を取りました。
題材がアメリカのコミック史そのものだったことも効いています。日系アメリカ人の漫画家が主人公で、バットマンやディズニーを思わせる要素は、米国の読者にこそ刺さります。英語版が出なかった理由と受賞した理由が同じところにある、というのは少し皮肉にも感じます。
英語版は年4巻のペースで続きます。このペースだと、全20巻がそろうのは2031年ごろです。
